吹き抜けと開放感——縦方向の空間設計論

吹き抜けと開放感——縦方向の空間設計論

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

吹き抜けと開放感——縦方向の空間設計論

天井高が変えるのは「体積」ではなく「感覚」

住宅設計の相談で、「吹き抜けが欲しい」という要望は非常に多い。しかし私がいつも確認するのは、「なぜ吹き抜けが欲しいと思ったのですか?」という問いかけだ。多くの方は「開放感が欲しいから」と答える。では、その開放感とは具体的にどのような感覚なのか。

私は吹き抜けを「空気の柱」として捉えている。単に天井を抜いて高くするということではなく、空間に垂直方向の流れを生み出す装置として考えるのだ。人間の身体感覚は、実は水平方向よりも垂直方向の変化に敏感である。たとえば、同じ30平米の部屋でも、天井高が2.4mと4.8mでは、まったく異なる体験になる。増えたのは空気の体積だけだが、私たちの身体は「ここは特別な場所だ」と無意識に感じ取る。

この感覚の変化こそが、吹き抜けの本質だと私は考えている。

光の入り方を設計する——高窓という選択肢

吹き抜けを設ける最大のメリットのひとつは、高い位置からの採光を得られることだ。特に効果的なのは、北向きの敷地における吹き抜け設計である。

北向きの敷地は一般的に「日当たりが悪い」と敬遠されがちだ。しかし吹き抜けを設け、その上部に高窓を配置することで、隣家の屋根を越えて安定した光を取り込むことができる。南からの直射日光と異なり、北側からの光は一日を通じて穏やかで、読書や作業に適した質の光となる。

また、吹き抜けの壁面を白く仕上げることで、高窓から入った光が反射しながら下階まで届く。これは単なる明るさの問題ではない。光が「降りてくる」という体験は、その空間に独特の神聖さすら与える。教会建築が高窓を多用してきた理由を、住宅設計を通じて実感することがある。

ただし注意すべきは、高窓の向きと大きさのバランスだ。西向きの高窓を大きく取りすぎると、夏の午後に強烈な西日が差し込み、室温が急上昇する。私は必ず敷地の周辺環境を詳細に調査し、季節ごとの太陽高度をシミュレーションしてから窓の配置を決定している。

音と温度——吹き抜けが抱える二つの課題

ここまで吹き抜けの魅力を語ってきたが、実務者として正直に伝えなければならないことがある。吹き抜けには明確なデメリットが存在するのだ。

まず音の問題がある。吹き抜けは上下階をつなぐため、1階のリビングでの会話や、テレビの音が2階の寝室まで筒抜けになる。子どもが成長して受験期を迎えたとき、あるいは家族の生活時間帯がずれてきたとき、この音の問題は深刻になりうる。

こうした住宅では、吹き抜けに面する2階の部屋配置を慎重に検討することが重要だ。寝室や子ども部屋は吹き抜けから離し、代わりに書斎やファミリースペースなど、音が気にならない用途の空間を配置する。また、吹き抜けに面する開口部に引き戸を設け、必要に応じて音を遮断できる仕組みを取り入れることも有効である。

次に温度の問題だ。暖かい空気は上昇する。これは物理法則であり、どれだけ高性能な断熱材を使っても変わらない。吹き抜けのある住宅で「冬、足元が寒い」という声を聞くことは少なくない。

この問題に対して私が重視しているのは、床暖房との組み合わせと、シーリングファンの適切な配置だ。特にシーリングファンは冬季に逆回転させることで、天井付近に溜まった暖気を緩やかに攪拌できる。見た目のデザイン性だけでなく、空調効率の観点からも検討すべき設備である。

「抜く」ことで生まれる家族の距離感

吹き抜けを語るとき、私がもっとも重視しているのは、空間的なつながりが生む「気配の共有」だ。

かつて日本の民家には、土間から小屋裏まで視線が通る大きな吹き抜け空間があった。囲炉裏の煙が立ち上り、家族全員が同じ空気を共有していた。現代の住宅はプライバシーを重視するあまり、家族を個室に分断してしまった側面がある。吹き抜けは、失われたつながりを現代的なかたちで取り戻す手法になりうる。

たとえば、吹き抜けに面して2階にスタディコーナーを設けた住宅では、お子さんが宿題をしている様子を、1階のキッチンに立つお母さんが自然に見守ることができる。声をかけようと思えばかけられる。でも、いつも監視しているわけではない。この「つかず離れず」の距離感が、思春期を迎えたお子さんとの関係を良好に保つ一助になることもある。

吹き抜けは物理的な空間であると同時に、家族関係を設計するツールでもあるのだ。

部分吹き抜けという現実的な解

「吹き抜けは憧れるけれど、コストや居室面積の確保を考えると難しい」という相談も多い。そのような場合、私は「部分吹き抜け」を提案することがある。

リビング全体を吹き抜けにするのではなく、ダイニングテーブルの上だけ、あるいは階段の上部だけを吹き抜けにする。面積は限られていても、垂直方向への視線の抜けがあるだけで、空間の印象は大きく変わる。

特に効果的なのは、階段と吹き抜けを組み合わせる手法だ。階段を上り下りするたびに、縦方向の空間を体験することになる。毎日の動作の中に「空間を感じる瞬間」を組み込むことで、住まい全体の質が向上する。

また、部分吹き抜けであれば、2階の床面積を大きく犠牲にすることなく、開放感を得られる。現実的な予算と敷地条件の中で最大限の効果を引き出す——これこそが建築家の腕の見せどころだと私は考えている。

縦の空間が問いかけるもの

私たちは普段、水平方向に移動して生活している。家の中を歩き、街を歩き、電車で移動する。視線もまた、多くの時間を水平方向に向けている。

吹き抜けは、そのような日常の中で、ふと上を見上げる機会を与えてくれる。高い天井、そこから降り注ぐ光、家族の気配。見上げるという行為自体が、どこか祈りに似た静けさを持っている。

吹き抜けを設計するとき、常に考えるのは「この家で暮らす人が、見上げたとき何を感じるか」ということだ。単に「広い」「明るい」ではなく、もっと言葉にしにくい感覚——安心感、希望、あるいは畏敬の念のようなもの——を建築によって生み出せないかと考えている。

あなたが理想とする住まいには、どのような「縦の空間」があるだろうか。見上げたとき、そこにどんな光が差し込み、どんな音が聞こえ、誰の気配を感じたいだろうか。その問いへの答えが、きっとあなただけの住まいのかたちを導き出してくれるはずだ。

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河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

1977年、香川県生まれ。大阪工業大学建築学科卒業後、組織設計事務所で複合施設・商業施設の設計に携わる。2010年、河添建築事務所を設立。東京テクニカルカレッジ非常勤講師も務める。香川・東京を拠点に、「なぜその形か」を問い続ける設計を行う。

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