平屋が選ばれ続ける理由——ブームの裏にある設計の本質

平屋が選ばれ続ける理由——
ブームの裏にある設計の本質

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

平屋がここ数年、静かに選ばれ続けている。住宅展示場の新顔はどこも平屋に力を入れ、雑誌の特集も「平屋という選択」が並ぶ。一過性のブームかと思いきや、私のところへの相談でも「平屋で考えたい」という声は確実に増えている。

なぜ今、平屋なのか。「階段がないから楽」「バリアフリーだから老後も安心」——そういった実用的な理由だけではない気がしている。この選択の裏には、もっと本質的な何かがある。

「縦に積む」時代から「横に広がる」時代へ

高度成長期の住宅は、縦に積むことで床面積を稼ぐ設計だった。狭い土地に2階・3階を積み上げ、家族それぞれの部屋を確保する。核家族化と土地価格の上昇が、その形を合理化した。

しかし今、家族の形が変わった。子どもは巣立ち、夫婦2人になった。在宅ワークが定着し、「家の中での動き」が変化した。老後を見据えて、階段のある家に不安を感じ始めた。

縦に積む必然性が薄れた。そのとき、人は横に広がる選択に気づく。

平屋の設計が本当に難しい理由

平屋は、見た目のシンプルさとは裏腹に、設計が難しい。

2階建てなら、プライベートな空間(寝室・子ども部屋)を上階に押し込むことで、1階のパブリックゾーンとの分離が自然に生まれる。平屋はそれができない。すべての機能が同一平面に展開されるため、光・通風・プライバシー・動線の整理を、水平方向だけで解かなければならない。

敷地に対して建物の「影」が大きくなることも課題だ。2階建てなら中央部に光が届くが、平屋の中央は暗くなりやすい。中庭やトップライト(天窓)をうまく組み合わせないと、「広いのに暗い家」になってしまう。

逆に言えば、こうした課題を丁寧に解いた平屋は、2階建てにはない豊かさを持つ。天井を高く取れる。軒を深く出して縁側のような外部空間をつくれる。庭との連続性が、暮らしの中に自然と滲み出てくる。

老後を「前提」にすることの正しさ

「まだ若いのに、老後の話は早い」という方もいる。しかし家は30〜40年以上使うものだ。50代で建てれば、80代・90代まで住むことになる。

老後の暮らしを前提に設計することは、「後ろ向き」ではない。むしろ合理的な先読みだ。廊下を広めに取る、段差をなくす、寝室と水回りを近づける——こうした配慮は、若いうちも不便ではなく、年を重ねたときに真価を発揮する。

バリアフリーを「障害者向けの特別仕様」として後付けするのではなく、最初から暮らしに溶け込んだ形で設計すること。それが平屋の設計で目指すべき姿だ。

「広い家」より「ちょうどいい家」

平屋を選ぶ人の多くが、面積の縮小も同時に受け入れている。かつて4LDKに住んでいた夫婦が、子どもが独立したタイミングで「2人にちょうどいい家」を求めて平屋を選ぶ。

この「ダウンサイジング」は、豊かさの損失ではない。余分な部屋の掃除から解放され、管理しやすい範囲で生活が完結し、空間の質を面積の量より優先できる。

私は「大きな家」より「ちょうどいい家」の方が、長く愛される家になると思っている。10年後も20年後も、ここで暮らしていたいと感じる家——その感覚は、面積の多さよりも、光と素材と動線の質から生まれる。

土地選びから設計の話が始まる

平屋を建てるなら、土地の選び方から変わる。建蔽率(けんぺいりつ)——敷地に対して建物が占める割合——に余裕がある土地が必要になる。同じ延床面積なら、2階建てより広い敷地が要る。

しかし都市部でも、平屋に向いた土地はある。広大な敷地でなくても、コの字型やロの字型の配置で中庭を取り込み、採光と通風を確保する手法がある。「平屋は広い土地がないと無理」というのは、思い込みかもしれない。

まず、土地の条件と家族の暮らし方を一緒に整理することから始めてほしい。そこから、あなたにとっての「ちょうどいい平屋」の形が見えてくる。

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

1977年、香川県生まれ。2002年に大阪工業大学工学部建築学科を卒業。2010年、河添建築事務所に参画し代表に就任。香川・東京の二拠点を構え、住宅から商業建築まで幅広い設計を手がける。

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敷地と暮らし方を伺いながら、あなたにとっての「ちょうどいい平屋」を一緒に考えます。

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