片付かない家には、住人ではなく設計に問題がある。
20年、住宅を設計してきて確信していることがある。「うちは物が多くて」と言う施主ほど、実は物の量は普通だ。問題は量ではなく、収納の設計にある。
「収納を増やせば解決する」という誤解
リフォームの相談で最も多い要望のひとつが「収納を増やしたい」だ。
しかし、収納面積を増やしただけで片付く家になった例を、私はほとんど知らない。むしろ収納スペースが増えると、「しまえる」安心感から物が増え、やがてまた同じ問題に戻る。
片付かない本当の原因は、収納の量ではなく、収納の位置と動線の不一致にある。
たとえば、こんな場面を想像してほしい。玄関で脱いだコートを、2階のクローゼットまで運んで毎回しまう家。リビングで使う文房具が、書斎の引き出しの中にある家。料理中に使う調味料が、キッチンから遠い棚に置かれた家。
どれも収納スペースとしては存在している。しかし、使う場所と収納する場所が離れているため、「とりあえずここに置く」が積み重なり、散らかる。
収納設計の本質は「動線と一致させること」
私が収納を設計するとき、最初に考えるのは「何をどこで使うか」だ。
使う場所の近くに、使う頻度に合わせた収納を用意する。これが大原則だ。
玄関には、外出・帰宅の一連の行動に必要なものをすべてしまえる場所が必要だ。コート、鞄、傘、靴、鍵——これらが玄関まわりに収まれば、リビングに「とりあえず置き」は発生しない。最近よく設計するのは、玄関土間から続くファミリークローゼット(ウォークイン型)だ。外から帰ったら上着を脱いでそのまましまい、手を洗って室内へ入る動線。これだけで家の散らかり方が劇的に変わる。
キッチンは作業台と収納の関係が命だ。調理中に手が届く範囲に、使う道具と調味料がある。食器は食卓に近い場所にある。ゴミ箱は調理動線の中に位置する。こうした配置の積み重ねが、「使ったらすぐしまう」を自然に生む。
リビングは家族全員の行動が集中する場所だ。学校のプリント、リモコン、充電器、本、子どものおもちゃ——さまざまなものが集まってくる。ここに「一時置き場」を意図的に設計することが重要だ。完全にしまう場所ではなく、「ここに置いておいていい」という場所を設けることで、散らかりをコントロールできる。
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「見せる収納」と「隠す収納」の使い分け
もうひとつ、収納設計で重要なのが「見せる・隠す」の判断だ。
全てを扉の中に隠そうとすると、扉の開閉が面倒になり、しまわなくなる。逆に全てをオープンにすると、視覚的にうるさくなり、空間が落ち着かない。
私が設計で意識するのは、「毎日使うものは取り出しやすいオープン収納に、使用頻度の低いものは扉付きの収納に」という原則だ。
毎日使うコップや箸は、扉のない棚に並べる。季節外れの衣類や年一回しか使わないものは、見えないところにしまう。日常的に目に入るものだけを選び抜いて「見せる」——これが、片付いて見える空間の仕組みだ。
収納の「奥行き」問題
もうひとつ見落とされがちなのが、収納の奥行きだ。
一般的なクローゼットの奥行きは60〜90センチある。奥にしまったものは、手前のものをどかさないと取り出せない。結果、奥は「死蔵品の墓場」になる。
私がよく提案するのは、奥行きを浅く抑えた収納だ。たとえば奥行き35センチのオープン棚は、全てのものが一目で見え、すぐ取り出せる。同じ容積でも、使いやすさは全く異なる。「しまいにくい収納」は、結局使われない収納になる。
設計で解決できること
「片付けが苦手だから」と自分を責める人は多い。
しかし、片付けは意志の問題ではなく、仕組みの問題だ。使う場所に収納があり、しまいやすければ、人は自然と片付ける。設計の力で、片付けなくても片付いている状態を作ることができる。
収納の相談は、間取りが決まってからでは遅い。使い方と動線を考えながら間取りを作るとき、初めて「本当に機能する収納」が生まれる。
家を建てる前に、あるいはリフォームを検討する前に——一度、自分の家の「片付かない理由」を設計者と一緒に考えてみてほしい。