片付かない家の正体——収納設計の本質

片付かない家の正体
——収納設計の本質

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

収納設計の本質——なぜ家は散らかるのか

片付けられない人など、実は存在しない

「私は片付けが苦手で……」

住宅の設計相談に訪れるお客様の多くが、どこか恥ずかしそうにこう切り出される。まるで自分の性格的欠陥を告白するかのように。しかし私は、20年以上住宅設計に携わってきた経験から、はっきりと申し上げたい。片付けられない人など、実は存在しないのだと。

存在するのは、片付けにくい家だけである。

これは慰めでも励ましでもない。建築家として数百の住宅を設計し、竣工後の暮らしぶりを見てきた私の、率直な結論である。どれほど几帳面な人でも、収納設計に欠陥のある家では必ず散らかる。逆に、どれほど大雑把な性格の人でも、適切に設計された収納があれば、自然と片付いた暮らしが実現する。

家が散らかるのは、住む人の問題ではない。設計の問題なのだ。

「収納率」という数字の罠

住宅の収納を語るとき、よく「収納率」という指標が用いられる。延床面積に対する収納スペースの割合で、一般的には12〜15%程度が理想とされる。しかし私は、この数字だけを追いかけることの危険性を、何度も目の当たりにしてきた。

以前、あるご家族から相談を受けたことがある。築5年の注文住宅にお住まいで、収納率は14%と十分な数値だった。にもかかわらず、家中がモノで溢れていると言う。現地を訪問して、私はすぐに原因を理解した。

2階の寝室には大きなウォークインクローゼットがあり、小屋裏には広大なロフト収納が設けられていた。数字上は立派な収納量である。しかし、日常的に使うモノを置く場所が、1階のリビング周りにほとんど存在しなかったのだ。

郵便物、リモコン、子どもの学校のプリント、充電中のスマートフォン、読みかけの本——。暮らしの中で毎日手に取るモノたちの居場所が、設計段階で考慮されていなかった。結果として、ダイニングテーブルの上が常に「仮置き場」と化し、そこから部屋全体に散乱が広がっていった。

収納は量ではなく、配置である。どこに、何のための収納があるか。その設計思想こそが、暮らしの秩序を決定づける。

「しまう」と「置く」の決定的な違い

収納設計において、私が最も重視している概念がある。それは「しまう収納」と「置く収納」の区別だ。

「しまう収納」とは、季節外の衣類、来客用の寝具、思い出の品々など、日常的には取り出さないモノを保管する場所である。これは家の奥まった場所、たとえば寝室のクローゼットや小屋裏でも構わない。

一方「置く収納」とは、毎日の暮らしの中で頻繁に出し入れするモノの定位置である。こちらは、動線の要所に、すぐ手が届く形で配置されなければならない。

多くの住宅で収納が破綻するのは、この二つを混同しているからだ。すべてを「しまう収納」として設計してしまうと、住む人は毎日使うモノをいちいち奥から出し入れすることになる。それは現実的ではないから、結局テーブルの上や床に「仮置き」することになる。その「仮置き」が積み重なったものが、いわゆる「散らかった状態」なのである。

私が設計する住宅では、玄関からリビング、キッチン、洗面所に至る動線上に、必ず「置く収納」を点在させる。鍵とカバンの定位置、郵便物の一時保管場所、毎日使う掃除道具の居場所——。これらすべてに、明確な「住所」を与えることが、設計者の責務だと考えている。

アクション数という設計言語

私が収納を設計する際に用いる、もう一つの重要な概念がある。「アクション数」という考え方だ。

あるモノを取り出し、使い、元に戻すまでに必要な動作の数。これが多ければ多いほど、人はその収納を使わなくなる。極めて単純な原理だが、住宅設計において見落とされがちな視点でもある。

たとえば、掃除機を考えてみてほしい。廊下の収納に掃除機がしまわれているとする。使うためには、収納の扉を開け、手前に置かれた荷物をどかし、掃除機を取り出し、コードを伸ばす。これで4アクションだ。使い終わったら逆の手順で戻す必要がある。合計8アクション。

この場合、多くの人は掃除機を出しっぱなしにするか、あるいは掃除の頻度そのものが下がる。これは意志の弱さではなく、人間の自然な反応である。

私が提案するのは、掃除機専用のニッチを壁に設けることだ。扉をつけず、コードも常時差しっぱなしにできる設計にする。取り出して使い、戻すまでのアクション数は3以下。これだけで、掃除の心理的ハードルは劇的に下がる。

収納とは、モノをしまう場所ではない。モノを使いやすくする装置なのだ。

見せる収納の光と影

近年、オープンシェルフや見せる収納が流行している。雑誌やSNSで美しく整理された棚の写真を目にする機会も多い。私自身、デザインとしての「見せる収納」の魅力は十分に理解している。空間に奥行きを与え、住む人の個性を表現する手法として、確かに有効である。

しかし、すべてを見せる収納で解決しようとするのは危険だ。

見せる収納が美しく機能するためには、そこに置かれるモノ自体に統一感が必要である。本の背表紙、食器の色合い、グリーンの配置——。それらをキュレーションし続ける労力は、想像以上に大きい。日常的に使うモノの大半は、残念ながら「見せる」ことを前提にデザインされていない。子どものおもちゃ、日用品のストック、書類の束。これらを見せる収納に無理に押し込めば、空間は途端に雑然とする。

私の設計では、見せる収納と隠す収納を明確に使い分ける。リビングの一角に美しいオープンシェルフを設けるなら、その背後や横には必ず、扉付きの「隠す収納」を配置する。見せたいモノと見せたくないモノ、その両方に居場所を用意することで、はじめて見せる収納は機能する。

暮らしの輪郭を描くということ

最後に、収納設計の根本にある考え方について触れておきたい。

収納を設計するとは、実はモノの置き場所を決めることではない。住む人の暮らしの輪郭を描くことなのだ。

朝起きてから夜眠るまで、その家でどのような動きをするか。何を手に取り、どこで使い、どこに戻すか。その一連の流れを想像し、すべての動作が淀みなく流れるよう設計する。収納とは、その流れを支える見えないインフラである。

だから私は、設計の初期段階で必ず、お客様の一日の行動を細かくヒアリングする。持ち物のリストを作っていただくこともある。それは単なる情報収集ではなく、その方がどのような暮らしを望んでいるのかを理解するためのプロセスだ。

家が散らかるとき、それは暮らしと空間の間に齟齬が生じているというサインである。設計者として私たちがなすべきは、その齟齬を解消し、暮らしの流れに寄り添った空間を創造することだ。

あなたの家には、毎日使うモノたちの「住所」がきちんと用意されているだろうか。もし散らかりやすい場所があるなら、それはあなたの性格の問題ではなく、空間からのメッセージかもしれない。その場所に、何があれば暮らしは変わるのか——。一度、立ち止まって考えてみてほしい。

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河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

1977年、香川県生まれ。大阪工業大学建築学科卒業後、組織設計事務所で複合施設・商業施設の設計に携わる。2010年、河添建築事務所を設立。東京テクニカルカレッジ非常勤講師も務める。香川・東京を拠点に、「なぜその形か」を問い続ける設計を行う。

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