防音設計の基本——住んでから後悔しない家づくり

防音設計の基本——
住んでから後悔しない家づくり

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

防音と住宅設計——音を制御する空間の考え方

音の問題は、住んでから気づく

住宅設計の相談を受けるなかで、「防音」について最初から明確な要望を持っている方は、実はそれほど多くありません。間取りや収納、日当たりや家事動線といった話題が先行し、音の問題は後回しにされがちです。しかし、実際に家を建てて住み始めてから、「こんなに外の音が気になるとは思わなかった」「子どもの足音で階下から苦情が来た」という声を聞くことは少なくありません。

私がこれまで手がけてきた住宅のなかでも、音に関する後悔は、住み手の生活の質に直結する深刻な問題として浮上することがあります。なぜなら、音は目に見えないからです。図面を見ても、模型を眺めても、音の伝わり方は想像しにくい。だからこそ、設計段階で建築家がどれだけ音について考えているかが、住まいの快適性を大きく左右するのです。

音には「空気音」と「固体音」がある

防音を考えるうえで、まず理解しておきたいのは、音の伝わり方には大きく二種類あるということです。

一つは「空気音」。これは文字通り、空気を媒介として伝わる音です。人の話し声、テレビの音、外から聞こえる車の走行音などがこれにあたります。空気音を防ぐには、音の通り道を塞ぐことが基本になります。壁や窓の気密性を高め、隙間をなくすことで、かなりの効果が得られます。

もう一つは「固体音」。これは建物の構造体そのものを伝わる音です。床を歩く足音、椅子を引きずる音、配管を流れる水の音などが該当します。固体音は空気音よりも厄介で、壁を厚くするだけでは解決しません。振動そのものを断ち切る工夫が必要になります。

私が設計する際には、この二種類の音を常に意識しています。例えば、二世帯住宅で上下階に親世帯と子世帯が暮らす場合、空気音対策として床の遮音等級を上げるだけでなく、固体音対策として床の下地に防振材を挟み込むことを提案しています。どちらか一方だけでは、十分な効果は得られないのです。

窓の選び方が防音性能を決める

外部からの騒音対策において、最も弱点になりやすいのは窓です。どれだけ壁の断熱・遮音性能を高めても、窓が弱ければ音はそこから侵入してきます。

近年は複層ガラスが一般的になりましたが、防音という観点では、単純に二重にすれば良いというものではありません。同じ厚さのガラスを二枚重ねると、特定の周波数で「共鳴」が起こり、かえってその音域が通りやすくなることがあります。私は防音を重視する場合、異なる厚さのガラスを組み合わせた「異厚複層ガラス」や、中間膜を挟んだ「合わせガラス」を採用することが多いです。

また、サッシ自体の気密性能も重要です。引き違い窓よりも、縦すべり出し窓やFIX窓のほうが気密性は高くなります。開閉の利便性と防音性能のバランスを、生活スタイルに合わせて検討することが大切です。

敷地が幹線道路沿いにある場合、私はまず「どの部屋を道路側に配置するか」というゾーニングから考えます。寝室やリビングなど、静けさを求める空間をできるだけ道路から離し、浴室やクローゼットといった「音を気にしにくい空間」を緩衝帯として配置する。こうした平面計画上の工夫は、物理的な防音対策と同じくらい効果を発揮します。

室内の音環境は「間取り」で変わる

外部からの騒音だけでなく、室内における音の伝わり方も、設計段階で十分に配慮すべきポイントです。

例えば、リビングの吹き抜けは開放感を生む人気のデザインですが、音が二階に筒抜けになるという側面もあります。一階でテレビを見ていると、二階の寝室まで音が届いてしまう。子どもが受験期を迎えたとき、この構造が思わぬストレスになることもあります。

私が吹き抜けを設計する際には、音の問題を事前に説明したうえで、必要に応じて対策を講じます。例えば、吹き抜け部分の壁に吸音性のある素材を使う、二階の開口部を引き戸で閉じられるようにする、あるいは吹き抜けの位置を寝室から離すといった方法があります。

また、水回りの配置も重要です。トイレや浴室の排水音は、想像以上に響きます。特に深夜、誰かがトイレを使うたびに配管の音で目が覚めてしまうという話は珍しくありません。寝室の真横や直下に水回りを配置することは、できる限り避けたいところです。やむを得ない場合は、配管に防音材を巻く、壁に遮音シートを入れるといった対策を施します。

「完全防音」を目指すべきではない理由

ここまで防音の重要性を述べてきましたが、一方で私は「完全に音を遮断する家」を目指すべきではないとも考えています。

人間は、適度な環境音のなかで暮らすようにできています。無響室のような完全な静寂は、かえって不安や不快感を生むことがあります。自分の心臓の音や呼吸の音が異様に大きく聞こえ、落ち着かないのです。

住宅において目指すべきは、「不快な音を減らし、心地よい音を残す」という音環境のデザインです。隣家の騒音や道路の車の音は遮断したいけれど、庭の木々を揺らす風の音や、小鳥のさえずりは聞こえてほしい。そうしたメリハリのある音環境が、住まいに豊かさをもたらします。

窓を開ければ風と一緒に音も入ってくる。それを不快と感じるか、心地よいと感じるかは、その音の種類と、住む人の感受性による部分も大きいのです。設計者として私ができるのは、「開けるか閉じるか」を住み手が選択できる状態をつくること。防音とは、音を完全に遮ることではなく、音との関係をコントロール可能にすることだと、私は考えています。

音を意識することで見えてくる暮らしの輪郭

防音という視点で住宅を考えることは、実は、自分たちの暮らし方を深く見つめ直すことでもあります。

家族がどの時間帯に起きていて、誰がどこで何をしているのか。それぞれがどんな音を出し、どんな音に敏感なのか。在宅ワークが増えた今、オンライン会議の音声が家族の邪魔にならないか。楽器を弾く趣味があるなら、どの程度の防音が必要か。

こうしたことを具体的に想像し、設計者と共有することが、音の問題を未然に防ぐ第一歩になります。私が設計のヒアリングで音について詳しく聞くのは、そこに暮らしの本質が表れると知っているからです。

これから家を建てることを検討されている方は、ぜひ一度、今の住まいで気になっている音について書き出してみてください。そして、新しい家ではその音とどう付き合いたいのかを考えてみてください。そこから、あなたにとって本当に心地よい住まいの姿が、少しずつ見えてくるはずです。

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河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

1977年、香川県生まれ。大阪工業大学建築学科卒業後、組織設計事務所で複合施設・商業施設の設計に携わる。2010年、河添建築事務所を設立。東京テクニカルカレッジ非常勤講師も務める。香川・東京を拠点に、「なぜその形か」を問い続ける設計を行う。

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防音に配慮した家づくり

外部騒音や生活音の問題は、設計段階での対策が重要です。防音性能を考慮した住宅設計について、お気軽にご相談ください。

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