建築家・河添甚インタビュー——「形の前に問いがある」設計哲学

建築家・河添甚インタビュー——「形の前に問いがある」設計哲学

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

建築家が「形」の前に問うもの——河添甚が語る設計の起点

建築の評価は、しばしば見た目の美しさや新奇性に回収される。しかし建築家・河添甚は、形そのものよりも「なぜその形か」という問いの精度にこそ設計の本質があると語る。設計哲学の根幹、そして都市と建築の関係について聞いた。


建築を見るとき、最初に何を見ていますか?

ディテールから入る人は多いと思います。素材の質感、納まりの美しさ。それも大事です。ただ、私はまず全体の構成——プロポーションとボリュームの関係から見る。その建築が「何を言おうとしているか」を、形の全体像から読み取ろうとするんです。

たとえば、ある商業ビルのファサードが美しいガラスのカーテンウォールで覆われていたとする。でもそのガラスが、周囲の街並みや敷地の文脈とまったく関係なく選ばれていたら、それは単なる「きれいな皮膚」でしかない。逆に、構成が明快であれば、素材が素朴でも説得力がある。設計者の意図が全体構成に宿っているかどうか。私はそこを最初に問います。

「形の前にコンセプトがある。コンセプトの前に敷地がある。その順序を飛ばした建築は、どれだけ美しくても信用しない」


「良い建築」の条件とは何でしょうか?

一言で言えば、都市や街並みに新しい文脈を生む建築です。単体として完結するのではなく、周囲との関係の中で新しい意味を立ち上げること。建築が街の読み方を変える瞬間——それが私にとっての「良い建築」です。

コンセプトと形が乖離している建築——思想と形が一致していないものは評価しません。見た目がどれだけ洗練されていても、根拠のない形には説得力がない。これは厳しい言い方かもしれませんが、設計者としての最低限の誠実さだと考えています。


都市との関係を重視するようになった原点は?

香川で生まれ育ったことが大きいですね。瀬戸内の穏やかな地形、海と山の距離感、集落のスケール。あの風景の中では、建築は常に「土地の一部」だった。突出するものではなく、地形や気候と折り合いをつけながら存在している。それが私の原風景です。

「建築は土地の記憶を読むことから始まる。設計者が最初にすべきことは、線を引くことではなく、その場所の時間の積層に耳を傾けることだ」

東京に出てきて、都市のレイヤー(層)の複雑さに衝撃を受けました。歴史、経済、法規、人の流れ——何層もの文脈が重なり合っている。その中に建築を置くということは、文脈を「読む」だけでなく「書き換える」行為でもある。香川で学んだ「土地と共にある建築」と、東京で実感した「都市を編集する建築」。この二つの感覚が、今の設計思想の軸になっています。


テクノロジーと建築の関係をどう捉えていますか?

BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やパラメトリックデザイン、VRといった技術は、設計のプロセスを根本から変えつつあります。ただ、ここで重要なのは、テクノロジーは「問い」を代替しないということです。

アルゴリズムが最適解を出してくれる時代になっても、「この敷地で何を問うべきか」「この街に何が必要か」という設計の起点は、人間の思考でしかたどり着けない。テクノロジーはあくまで「思考の解像度」を上げる道具です。空間とテクノロジーの創造的な交差——技術によって建築の思考そのものを拡張できるか。それが今、建築の世界で問われている本質的なテーマだと思います。

道具に溺れれば、形だけが先走る。しかし道具を正しく使えば、これまで見えなかった文脈が可視化される。その境界線を見極めることが、今の建築家に求められている能力だと思います。


これからの建築に、何を期待しますか?

かつて建築は「新しいものを建てること」と同義でした。しかし今、都市に求められているのはむしろ「再編集」です。アダプティブ・リユース(既存建築の転用)やリジェネラティブ(再生的)な設計思想が注目されているのは、スクラップ・アンド・ビルドの時代が終わりつつあるからです。

「建築家の仕事は、もはや『建てること』だけではない。都市に積層された時間を読み、次の文脈を書くこと——それが設計の本質になりつつある」

設計に関わるとき、常に意識しているのは「この建築が50年後の街にどう見えるか」です。竣工写真が美しいだけでは意味がない。時間の中で街と共に変化し、むしろ年月を重ねることで文脈が深まるような建築。それが、私が目指す設計の到達点です。

建築は、時代の鏡であると同時に、時代を超える装置でもある。その二面性を引き受ける覚悟が、これからの建築家には必要だと考えています。

東京の建築家・河添甚に相談する

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

1977年、香川県生まれ。2002年に大阪工業大学工学部建築学科を卒業。2010年、河添建築事務所に参画し代表に就任。香川・東京の二拠点を構え、住宅から商業建築まで幅広い設計を手がける。

NEXT STEP

東京の建築家に相談する

初回相談無料。土地・予算が決まっていなくても大丈夫です。

コラム一覧へ