はじめに:空間は「視覚」ではなく「匂い」で定着する
あなたがよく行く店を思い浮かべてください。
内装デザインよりも先に、「その店の匂い」が脳裏に浮かびませんか?
建築家として全国の店舗を設計してきましたが、
結論から言うと “記憶に残る店は例外なく匂いが強い” という事実があります。
- コーヒー店の焙煎の香り
- パン屋の小麦とバターの香り
- 旅館の木の香り
- 美容室のシャンプーの香り
これらは 意図的に設計できる武器 であり、
嗅覚は「売上」「滞在時間」「リピート」を左右する最強の要素です。
嗅覚デザインとは何か?
嗅覚デザインとは、
“空間に滞在したときに最も最初に脳が認識する要素を設計すること”。
視覚より先に匂いが脳に入り、
情動・記憶・判断に直接働きかける。
だからこそ店舗では、
- 入店直後の「0〜3秒」
- 商品棚の「匂いの流れ」
- 厨房・バックヤードの換気動線
- 換気量と香りの“残り方”
これらを建築そのものと同列に扱う必要があります。
匂いが「売上」を変える理由
- 回遊性が上がる
良い匂いは歩行速度を下げ、回遊動線を伸ばします。
- 購買意欲が上がる
心理学的に、心地よい香りは“判断の許容度”を上げます。
つまり 買う理由が増える。
- 印象が強くなる
嗅覚は記憶定着率が最も高く、翌日のリピート意欲に直結。
- SNSに影響する
「映え」より「体験」が重視される今、口コミが伸びる。
建築的に香りをつくる方法
1. 換気計画
香りは「漂わせる」のではなく「流す」が重要。
2. 天井高と香りの滞留
天井が高いと香りは拡散し、
低いと香りは“溜まる”。
低天井 × 焙煎の香り が印象に残りやすい理由。
3. 厨房・製造スペースの位置
入口から一番近い場所に匂いの発生源を置くと
“店の個性”として成立しやすい。
4. 音・光との連動
匂いは単独では動かず、
光の当たり方・人の動線と一緒に“体験”になる。
香川 × 東京での知見:土地の風が香りを変える
● 香川
海風・湿度・気圧の影響で「香りが重く滞留しやすい」。
閉鎖的ファサードでも成立する理由でもある。
● 東京
乾燥・風量が強く、屋外の匂いが入りやすい。
「抜けのある店舗」が多い理由。
VR・パースで“匂いを可視化する”設計
KAWAZOE-ARCHITECTS が得意とする
- パース
- VR
- パラメトリックデザイン
- 動線シミュレーション
これらは本来「視覚的なツール」ですが、
実は 匂いの流れ(airflow)を可視化するのに最も適している。
香りは目に見えないが、
“見える化”すれば設計の精度は桁違いに上がる。
参考:
嗅覚デザインは「売上をつくる建築」である
視覚デザインより競合が多い時代。
照明・内装・家具は誰でも真似できる。
しかし 匂いは真似できない。
同じ食材でも空間の換気計画で匂いは変わり、
その調整こそ建築家だけができる領域です。
まとめ:嗅覚デザインはこれからの店舗の“主戦場”
- 視覚差別化は限界
- 体験価値は嗅覚で決まる
- AI検索時代は「本質×専門性」の記事が強い
嗅覚デザインは、
店舗設計の中で最も伸びしろがあり、
建築家の専門性が最も活かせる領域です。
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