虎ノ門アルセアタワーの前に来た。
麻布台ヒルズの南端、桜田通り側に面した高層複合棟だ。

街路から見上げると、垂直のガラスが空まで続いていた。
カーテンウォールの縦フィンが細かく、日光の角度によって面全体が輝いたり沈んだりする。超高層の量感よりも、その表面の精度が先に目に入った。
建物の裾に沿って歩くと、エスカレーターがあった。
上りはじめると、両側の壁が緑だった。

Patrick Blancの垂直庭園だ。
フランス人の植物学者・デザイナーであるPatrick Blancは、パリ、マドリード、シンガポールで建物の外壁を植物で覆う手法を展開してきた。ケーブルと金属フレームで植物の根を支持するシステム——それがここでは建物の動線を丸ごと包んでいる。
「壁が緑」なのではなく、「緑が壁」になっている。
建物と庭の境界が曖昧になる体験が、エスカレーターに乗る動作の中に組み込まれている。

水平に歩ける通路に出ると、今度は緑の柱が並んでいた。
格子状のキャノピーが空に向かって開き、その下に垂直庭園の柱が間隔を置いて立っている。石畳、樹木、植栽。屋内でも屋外でもない「間」の場所。

建物の内側からエスカレーターで上ると、ガラス越しに今度は緑が外に見えた。
さっき外から見ていた垂直庭園の反対側。内と外を、ガラス一枚が仕切っている。右の壁は銅色のパネルで、光が縦に流れる。
同じ緑を、複数の視点から見ている場所だと気づいた。
タワーのエントランス棟に回った。

「TORANOMON ALCEA TOWER」と書かれていた。
住宅棟のエントランス。門柱のような黒鉄の柱、植え込みの植栽、石畳。警備員が一人立っていた。
東京で「タワーマンション」と呼ばれるものがこういう顔をしている時代になった。

ロビーに入ると、バックライトのパネルが光っていた。
アイボリー色のパネルが3枚、縦に並んで静かに発光している。グレーのラウンジチェア、植栽。ガラス越しに夕暮れの街が見えた。

上の階から見下ろすと、タワーのアトリウムが広がっていた。
温かみのある発光パネル、ガラスの全面開口、その向こうに都市。エスカレーターが下に向かっている。
ここに住む人が、毎日この光の中を通る。
なぜ虎ノ門に、これだけの緑が必要だったのか。
麻布台ヒルズ全体の計画概念は「緑に包まれた都市」だ。8.1ヘクタール、6,000㎡の植栽。その哲学が、タワーの動線にまで及んでいる。
設計者として見ると、エスカレーターを垂直庭園で挟む発想は単なる装飾ではない。人が建物に入る前から、建物に入った後も、一貫した感覚を保つための設計だ。動線が体験になっている。
街路に戻ると、通常の東京に戻った。
少し離れた麻布台ヒルズの庭とHeatherwickのアーチは、また別の顔をしている。同じ開発の中で、場所ごとに全然違う。
それだけの規模ということかもしれない。



