麻布台ヒルズを初めて歩いた。
何と呼べばいいか、歩きながらずっと考えていた。公園ではない。商業施設でもない。街、というには管理されすぎている。1989年に構想が始まり、約300の権利者と30年以上かけた交渉の末に生まれた、区域面積8.1ヘクタールの場所。

Heatherwick Studioが設計した低層商業棟「The Gardens」は、遠くから見ると生き物の骨格に見えた。
ポルトガル産石灰岩のアーチが複数組み合わさって建物を支えている。高さは最大で約27メートル。アーチは二重、三重に交差しながら、その上に緑を乗せている。Thomas Heatherwickは「建物は人々を喜ばせるべきだ」という言葉を繰り返す建築家だ。2010年上海万博の英国館「Seed Cathedral」、ロンドンのバタシー発電所再開発。その哲学が東京の都市スケールで試されている。
設計者として、この石の使い方を見るのは純粋に面白かった。アーチが荷重を受けながら、同時に植栽の土台になっている。構造と景観が分離していない。

近づくと、アーチはX型に交差していた。
石の量感と曲線の精度。一つひとつの部材が大きく、重く、精密だ。その内側に、BVLGARIの看板が見えた。
美しい構造体の中に、最高級ブランドがある。それを「正しい」とも「間違っている」とも言えなかった。ただ、自分がここを設計していたら、この内側に何を入れたかったかは少し考えた。

広場に出ると、人が座っていた。
段状の芝生に、子ども連れ、カップル、一人でいる人。Piet Oudolfがランドスケープを手がけた庭。オランダ人のOudolfはニューヨークのHigh Lineで「ニューウェーブ・プランティング」を世界に示した——枯れかけた草も美しさのうちに含まれる植栽を。麻布台では約6,000㎡。
これだけの人が自然に集まっている。それは設計の成果だ。同時に、ここは誰かの所有物でもある。その両方が、同じ芝生の上にある。

庭を進むと、銀色と金が向かい合っていた。
左がDior、右がCartier。どちらも独立したパビリオンとして設計されている。テナントとして商業ビルに入居するのではなく、ブランド自身の建物として街に立っている。これもHeatherwickの仕事だ。
ブランドが「建物を持つ」ということを、設計者として考えた。それは単なる店舗設計ではなく、都市の中に自分たちの論理を物質として置くことだ。それが良いかどうか以前に、そういう力がここに集まっているということは、確かだった。

少し引いて見ると、奇妙な構図が見えた。
手前に丸い石のベンチ。その奥に、縦縞のステンレスロッドに包まれたDiorのパビリオン。さらにその右奥に、黒く鱗状の屋根が見えている。
あれは霊友会釈迦殿——1975年に竹中工務店が設計した、在家仏教団体「霊友会」の東京本部施設だ。花崗岩のピラミッド型、頂上に金の輪。内部には1,000年前のクスノキから彫られた仏像がある。麻布台ヒルズの30年の再開発は、この建物に届かなかった。
同じフレームの中に、2023年のステンレスと1975年の花崗岩がある。

AZABUDAI HILLS MARKETのエントランスに立った。
扇形に広がるアーチが、空を向いて開いている。骨、貝殻、葉の脈——自然の中の形から着想した有機的な構造が、硬い石材と精密な施工で実現されている。奥の緑がガラス越しに見えた。
美しい、とまた思った。そう思うたびに、少し立ち止まった。

Tower Plazaの前に出ると、大きな円盤が重なっていた。
直径約18メートルのディスクが柱の上に3枚。その下の芝生に人が集まり、マーケットが立っていた。アーチ、カーテンファサード、円盤——Heatherwickは麻布台ヒルズのために複数の「タイプ」を開発した。どれも「人が集まる理由」を形にしようとしている。
実際に人が集まっている。設計者として、それは素直に見ていた。

テラスを伝って、霊友会釈迦殿の正面に出た。
花崗岩の黒いピラミッド。鱗状に積み重なった屋根、横縞のルーバー、頂上に金色の輪。竹中工務店、1975年。Heatherwickの有機的な石とは、まったく違う論理で建っている。どちらが「正しい石の使い方」かなど、問いとして意味をなさない。
ただ、この建物はここに残った。それだけのことが、なぜかずっと頭にあった。

夕方になると、庭の空気が変わった。
竹のような細いロッドが、円を描いて空に向かっている。白い小石、足元のライト、濡れた植栽の匂い。昼間とは別の場所になっていた。
なぜこの街に、これだけのものが生まれたか。答えの一つは「民間の力がここまで届いた」ということだ。もう一つの答えは「届かなかったものが、すぐ隣に立っている」ということかもしれない。
建築家として何かを言うべき場所だったかもしれない。でも、どちらとも言えないまま帰ってきた。




