二世帯住宅の設計——家族の距離感を建築で解く、理想の間取りとは

二世帯住宅の設計
家族の距離感を建築で解く

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

二世帯住宅の設計——家族の距離感を建築で解く

「近すぎず、遠すぎず」という難題

二世帯住宅の設計依頼を受けるとき、私はいつも最初の打ち合わせで両世帯に別々の時間を設けるようにしています。親世帯と子世帯が同席していると、どうしても本音が出にくいからです。

「できれば顔を合わせるのは週に数回でいい」と若い奥様が言い、「孫の顔は毎日見たい」とお母様が望む。この相反する要望を、私たちは一つの建築の中で解決しなければなりません。

二世帯住宅の設計で最も難しいのは、この「距離感」のデザインです。物理的な壁や扉の配置だけでなく、視線、音、生活動線、さらには心理的な境界線まで、建築は家族の関係性そのものを形づくります。20年以上この仕事を続けてきて、私は二世帯住宅こそが住宅設計の本質的な問いを突きつけてくると感じています。

三つの型——完全分離、部分共有、完全同居

二世帯住宅には大きく分けて三つの型があります。

一つ目は「完全分離型」。玄関から水回りまですべてを分け、隣り合うマンションのように独立した二つの住戸をつくる方式です。プライバシーは最も確保されますが、コストがかかり、敷地にも余裕が必要です。

二つ目は「部分共有型」。玄関やリビングの一部を共有しながら、寝室や水回りは分離するパターンです。最も多い依頼がこの形で、何をどこまで共有するかの判断に設計者の腕が問われます。

三つ目は「完全同居型」。昔ながらの大家族の暮らし方に近く、キッチンも浴室も一つ。最もコンパクトに収まりますが、ストレスの原因になりやすい面もあります。

私が設計で心がけているのは、これらの型を教条的に適用しないことです。たとえば完全分離型を選んでも、庭を介して自然と顔を合わせられる配置にしたり、部分共有型でも「引きこもれる場所」を各世帯にしっかり確保したり。型はあくまで出発点であり、その家族だけの「距離感の処方箋」を探っていく作業が設計の本質だと考えています。

音と視線——見えない境界線をつくる

二世帯住宅で最も相談が多いのが、音の問題です。「上の階の足音が気になる」「深夜に帰宅する息子の物音で目が覚める」という声は、完成後のクレームとしても頻繁に耳にします。

私が上下分離型の二世帯住宅を設計するとき、床の遮音性能には特に注意を払います。一般的な木造住宅の床では、どうしても重量衝撃音(足音やものを落とした音)が伝わりやすい。そこで床の構造を二重にしたり、天井との間に空気層を設けたり、場合によっては親世帯の寝室の真上には子世帯の寝室を配置しないという平面計画上の工夫も行います。

音と同様に繊細なのが、視線の問題です。窓の位置一つで、お互いの生活が丸見えになってしまうこともあります。以前、左右分離型の二世帯住宅を設計したとき、両世帯のリビングが向かい合う中庭を設けました。ただし、窓の高さを微妙にずらし、立っているときは相手が見えるけれど、座っているときは見えないよう計算しました。「会いたいときは窓辺に立てばいい」——そんなささやかな選択肢をつくることで、住む人自身が距離感を調整できるようになります。

「境界」ではなく「緩衝帯」を設計する

二世帯住宅を設計するとき、私は「境界線」という考え方をあまり使いません。代わりに「緩衝帯」という概念で空間を構想します。

境界線は、あちら側とこちら側をはっきり分けるものです。しかし家族の関係は、そんなに明快に割り切れるものではありません。今日は一緒にいたい日もあれば、一人になりたい日もある。その揺らぎを受け止める空間が「緩衝帯」です。

具体的には、共有の土間スペースや、どちらの世帯からもアクセスできるサンルーム、半屋外のウッドデッキなどがこれにあたります。リビングと寝室のような明確な用途を持たない、曖昧な空間。この曖昧さが、実は家族の関係を柔軟に保つ装置になるのです。

あるお宅では、両世帯の間に「通り庭」のような土間空間を設けました。親世帯側からも子世帯側からも出入りでき、自転車を置いたり、雨の日に子どもが遊んだり、夏には夕涼みの場所になったり。この空間があることで、わざわざ「お邪魔します」と言わなくても、自然な交流が生まれていると聞きます。

時間軸で考える——10年後、20年後の暮らし

住宅設計で私が常に意識しているのは、時間軸です。特に二世帯住宅では、この視点が欠かせません。

設計時点では元気だった親世帯も、10年後、20年後には介護が必要になるかもしれない。逆に、子世帯の子どもたちは成長し、やがて独立していく。家族構成も身体状況も、確実に変化していきます。

だからこそ、私は二世帯住宅を「可変性」を持った建築として設計するよう心がけています。たとえば、将来的に壁を抜いて一つの空間にできるよう構造を考えておく。あるいは、親世帯の寝室をいずれ介護室に転用できるよう、水回りとの動線を短くしておく。子ども部屋は、将来の在宅ワークスペースや、親世帯の介護者用の部屋としても使える位置に配置する。

こうした「仕込み」は、目に見えるデザインではありません。しかし、10年後の家族にとっては、この見えない配慮こそがかけがえのない価値になるのです。

家族の「正解」は一つではない

二世帯住宅を検討されている方にお伝えしたいのは、「正解」は一つではないということです。

インターネットで検索すれば、「二世帯住宅のメリット・デメリット」といった記事がたくさん見つかるでしょう。しかし、そこに書かれていることが、あなたの家族に当てはまるとは限りません。世の中の「正解」と、あなたの家族の「正解」は、別のものだからです。

私が設計者として心がけているのは、その家族だけの答えを一緒に探すことです。それは時に、世間の常識とは異なる選択になることもあります。「完全分離型がおすすめ」と言われても、実はあなたの家族には部分共有型が合っているかもしれない。逆もまた然りです。

二世帯住宅は、家族の関係を問い直す機会でもあります。お互いがどんな暮らしを望んでいるのか、何を大切にしているのか、正直に話し合うことが設計の第一歩です。

その対話の先に、あなたの家族だけの「距離感」が見えてくる。そして、その距離感を空間として実現するのが、私たち建築家の仕事なのです。

あなたの家族にとって、心地よい距離とはどのくらいでしょうか。

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

1977年、香川県生まれ。2002年に大阪工業大学工学部建築学科を卒業。2010年、河添建築事務所に参画し代表に就任。香川・東京の二拠点を構え、住宅から商業建築まで幅広い設計を手がける。

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