狭小地の設計術——15坪でも豊かに暮らす

狭小地の設計術
——15坪でも豊かに暮らす

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

狭小地の設計術——15坪でも豊かに暮らす

小さな敷地との出会いが教えてくれたこと

私が独立して最初に手がけた住宅は、わずか12坪の旗竿地に建つ小さな家でした。正直なところ、当時の私はこの敷地を見たとき、「ここに本当に家族4人が暮らせる家が建つのだろうか」と不安を覚えたことを今でも鮮明に覚えています。

しかし、その経験が私の建築家としての視点を大きく変えることになりました。狭小地での設計は、制約との戦いではなく、むしろ本当に必要なものを見極める対話のプロセスなのだと気づいたのです。

東京をはじめとする都市部では、15坪以下の敷地に家を建てることは決して珍しいことではありません。土地の価格が高騰する中、限られた予算で都心に住みたいと考える方にとって、狭小地は現実的で魅力的な選択肢です。そして私は、この「小さく住む」という選択の中にこそ、住まいの本質が隠れていると確信しています。

「広さ」ではなく「豊かさ」を設計する

一般的に、住宅の快適さは床面積で語られがちです。しかし、私がこれまで設計してきた狭小住宅の住み手たちは、口を揃えて「思っていたより広く感じる」「むしろ以前の家より快適」と話してくれます。

この「体感の広さ」は、単純な面積では測れません。私が狭小地で設計する際に常に意識しているのは、「視線の抜け」「光の届き方」「動線の流れ」という三つの要素です。

例えば、15坪の敷地に建つ3階建ての住宅を考えてみましょう。各階の床面積は10坪程度。普通に設計すれば、確かに窮屈な空間になりかねません。しかし、吹き抜けを設けて視線を縦方向に解放し、階段をオープンにして光を下階まで導き、回遊できる動線を確保する。そうすることで、実面積以上の「広がり」を生み出すことができるのです。

私が手がけた世田谷の住宅では、建坪わずか8坪の中に、2層分の高さを持つリビングと、その周囲をめぐる回廊のような廊下を設けました。物理的な面積は小さくても、空間が連続することで、住む人は「狭い」とは感じません。むしろ、どこにいても家族の気配を感じられる親密な住まいになりました。

機能を重ねる——狭小住宅における空間の多義性

狭小地での設計において、私が最も重視しているのは「一つの空間に複数の役割を持たせる」という考え方です。これを私は「空間の多義性」と呼んでいます。

従来の住宅設計では、「リビング」「ダイニング」「書斎」「子供部屋」といったように、機能ごとに部屋を分けることが一般的でした。しかし、限られた面積でこれを実現しようとすると、一つひとつの部屋が窮屈になり、結果として使いにくい住まいになってしまいます。

私の設計では、例えば「リビングでありながら書斎でもある空間」「ダイニングテーブルが子どもの勉強机にもなる場所」「階段が本棚を兼ねる構成」といった、機能の重ね合わせを積極的に提案しています。

最近手がけた文京区の住宅では、キッチンカウンターを延長してワークスペースを設け、その背後の壁面全体を可動式の収納にしました。料理をしながら仕事ができ、子どもが宿題をしている様子も見える。収納を動かせば、来客時には広いダイニングとして使える。一つの空間が、時間帯や状況によって自在に役割を変えていくのです。

この「多義的な空間」は、実は狭小住宅だからこそ成立します。家全体がコンパクトにまとまっているからこそ、一つの空間の変化が家全体の使い勝手に直結する。この密度の高さこそが、狭小住宅の醍醐味だと私は考えています。

外部空間を「内部化」するテクニック

狭小地において、敷地の有効活用は至上命題です。しかし、建物を敷地いっぱいに建ててしまうと、採光や通風が確保できなくなり、かえって住環境が悪化してしまいます。

ここで私が提案するのが、外部空間の「内部化」です。完全な屋外でもなく、完全な屋内でもない、中間領域をいかに巧みにつくりだすかが、狭小住宅の快適さを大きく左右します。

具体的には、インナーバルコニーやライトコート(光庭)、半屋外のデッキスペースなどが挙げられます。これらは法的には床面積に算入されないことも多く、限られた容積率の中で「使える空間」を最大化する有効な手法です。

私が設計した目黒の住宅では、3階建ての中央に細長いライトコートを設けました。幅はわずか90センチですが、この光の井戸があることで、すべての部屋に自然光が届き、風が抜けていきます。各階の床をグレーチングにしたことで、光は地階まで到達し、建物全体が明るい空気に包まれています。

また、屋上を「第二のリビング」として積極的に活用することも、狭小住宅では効果的です。週末の朝食を屋上で取る。洗濯物を干しながら空を眺める。そうした小さな日常の豊かさが、狭小住宅での暮らしに奥行きを与えてくれます。

「持たない」暮らしと建築の役割

狭小住宅の設計を数多く手がける中で、私は一つの確信に至りました。それは、「家は生活を規定する」ということです。

小さな家に住むことは、必然的に持ち物を厳選することを求めます。本当に必要なものは何か、何があれば幸せに暮らせるのか。狭小住宅は、住む人にそうした問いを投げかけ続けます。

興味深いことに、私がこれまで狭小住宅を設計したクライアントの多くは、入居後数年経っても「もっと広い家に住み替えたい」とは言いません。むしろ、「この家のサイズ感が自分たちにはちょうどいい」「モノが増えないので暮らしがシンプルになった」という声を多く聞きます。

これは単に諦めではなく、住まいと対話を続ける中で、自分たちにとっての「豊かさ」を再定義した結果なのだと思います。建築家としての私の役割は、その対話のきっかけを空間として提供することなのです。

土地選びから始まる狭小住宅の成功

最後に、狭小地での住宅を検討されている方にお伝えしたいことがあります。それは、「土地を見つけてから建築家に相談する」のではなく、「土地探しの段階から建築家と一緒に動く」ことの重要性です。

狭小地には、その土地ならではの可能性と制約があります。前面道路の幅員、隣地との関係、高低差、採光条件。これらを総合的に判断し、「この土地にどのような住まいが可能か」を見極めるには、建築的な視点が不可欠です。

私自身、クライアントと一緒に土地を見に行き、その場で「ここならこういう住まいができる」とスケッチを描くことがあります。不動産屋さんが「建築は難しい」と判断した土地でも、工夫次第で素晴らしい住まいになることは珍しくありません。

15坪の土地に家を建てること。それは制約ではなく、むしろ住まいの本質に向き合う稀有な機会だと私は考えています。あなたにとって「豊かに暮らす」とは、どのようなことでしょうか。その答えを一緒に探す旅に、私は喜んでお供したいと思っています。

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河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

1977年、香川県生まれ。2002年に大阪工業大学工学部建築学科を卒業。2010年、河添建築事務所に参画し代表に就任。香川・東京の二拠点を構え、住宅から商業建築まで幅広い設計を手がける。

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