注文住宅を建てた人に、後から話を聞く機会がある。
竣工から2年、3年経った施主に「あのとき何が一番大変でしたか」と聞くと、答えは大抵二種類に分かれる。「特にない。楽しかった」という人と、「もっとこうすればよかった」という人だ。
後悔のない人と、後悔した人。何が違ったのか。私は20年かけてその違いを観察してきた。
後悔する人が、最初にすること
後悔した人の多くは、最初に「モデルハウスを見に行った」と言う。
それ自体は悪くない。しかし問題は、モデルハウスで「これが家だ」という基準を作ってしまうことだ。ハウスメーカーのモデルハウスは、売るために作られている。広く見せる工夫、明るく見せる照明、高級感を演出する素材——すべてが「契約してもらうため」の空間だ。
そこで「いいな」と思った感覚を持ったまま打ち合わせに入ると、「なぜか完成したものが違う」という結果になりやすい。モデルハウスは、あなたの家ではないから。
もう一つのパターンがある。最初から「予算内に収めること」だけを考えて動き始めた人だ。予算を絞ることは大切だ。でも「いくらで建てられるか」より先に「どんな家に住みたいか」が固まっていないと、コストダウンの際に何を削っていいかわからなくなる。結果、「なんとなく削れそうなもの」から削って、完成後に「ここが惜しかった」となる。
後悔しない人が、最初にしていたこと
後悔のない施主に共通していたのは、意外なことに「情報収集の前に、自分の話をした」ことだ。
自分がどう生きたいか。家族がどう変わっていくか。朝の光、夕方の時間の使い方、休日の過ごし方。そういうことを、誰かに話した。
私に相談に来る人の多くが、初回の面談でこんなことを言う。「こんな話をする機会がなかった」と。
家を建てる話は、普通の人間関係の中ではなかなかできない。親に話せば余計な口出しが来るし、友人に話しても「うちはこうだった」という自分の話になる。建築家はそれを聞く専門家でもある、と私は思っている。
初回相談は無料です。「まだ土地も決まっていない」「予算もざっくりしか決まっていない」——そんな段階でも構いません。むしろ、その段階から話し始めることに大きな価値があります。
「なんとなく建築家は敷居が高い」について
よく言われることだ。
確かに、設計事務所という言葉には、どこかよそよそしいイメージがある。白い空間に、難しい建築書が並んでいて、来訪者を値踏みするような建築家——そんな像が頭にある人もいるかもしれない。
私が事務所を構えて15年になる。正直に言えば、相談に来る人のほとんどが「来てよかった、思ったより話しやすかった」と言って帰る。
建築の話をする前に、生活の話をする。どんな朝を過ごしたいか、家族の間でどんな距離感がちょうどいいか、子どもが巣立ったあとどう暮らしたいか。その話が、設計の根拠になる。
「こんなことを話していいのか」と思うようなことこそ、聞かせてほしい。
「予算が少ないから相談できない」について
これも誤解だ。
建築家の仕事は「高い家を建てること」ではない。「限られた予算の中で最大限の空間をつくること」だ。むしろ、予算に制約があるほど、設計の力が問われる。
例えば、同じ坪数でも、窓の位置と大きさを工夫するだけで、まったく違う明るさと開放感が生まれる。それはコストゼロでできることだ。廊下をなくして動線を組み直すだけで、同じ面積が広く使える。素材を変えなくても、プロポーションと光の取り方で、空間の質は大きく変わる。
設計に払う費用は、その家に住む何十年かの「毎日の質」への投資だと、私は思っている。
あなたの家は、あなたの話から始まる
注文住宅で後悔しない人が最初にしていたこと——それは「自分の話を聞いてもらうこと」だった。
家を建てることは、人生でそう何度もない決断だ。その最初の一歩を、カタログや価格比較から始める必要はない。
まず、誰かに話してみればいい。
もしよければ、私に話してほしい。