地産地消の建築——地域素材が生む固有性

地産地消の建築——
地域素材が生む固有性

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

地産地消の建築——地域素材が生む固有性

足元にある風景を、もう一度見つめる

建築の仕事を続けていると、「どこにでもある住宅」と「その土地にしかない住宅」の違いについて、何度も考えさせられる。

この違いを強く意識する瞬間は、地方都市の敷地を訪れたときに訪れることが多い。周囲に新築の住宅が立ち並んでいても、どれも同じような外観で、東京の郊外と見分けがつかないことがある。一方で、少し離れた場所には、地元の石を積んだ古い塀や、その地域特有の瓦を葺いた民家が残っている。その対比は、建築に携わる者として強い問いを投げかけてくる。

建築における「地産地消」という言葉は、食の世界から借りてきた概念だ。しかし、この考え方は決して新しいものではない。むしろ、近代以前の建築はすべて地産地消だったと言っていい。運搬手段が限られていた時代、建物は必然的にその土地で手に入る素材で作られた。それが各地の固有性を生み出し、風土と一体となった景観を形作ってきた。

現代において、あえて「地産地消」を選ぶとはどういうことか。それは単なるノスタルジーでも、エコロジーの看板でもない。私は、それを「土地の声を聴く」行為だと捉えている。

素材が語る土地の物語

たとえば、寒冷地で住宅を設計する場面を考えてみる。「この土地らしい家に住みたい」という住まい手の希望は、移住者からも地元の方からも聞かれる声だ。

こうした地域の製材所を訪ねると、地元の山から切り出されたカラマツやスギが製材されている。寒暖差の激しい気候で育ったカラマツは、年輪が詰まって強度が高く、独特の赤みがかった色合いは、時間とともに深みを増していくという。

こうした話に触れると、素材が持つ「物語」の力を実感する。ホームセンターで購入する木材には、こうした物語がない。どこで育ち、どんな人の手を経てきたのかが見えない。しかし、地域の素材には、土地の気候、地質、そしてそれを扱ってきた職人たちの技術と歴史が刻まれている。

地元産の木材を構造材から内装まで用いた住宅は、周囲の山々と呼応するような佇まいを見せることがある。何より、住まい手が「この家の木は、あの山から来たんです」と訪問者に語るようになる——住まい手自身が、家の物語を語れるようになるのだ。

地域の職人技術という無形の資産

地産地消の建築を考えるとき、素材だけでなく「技術」も重要な要素となる。

たとえば、左官の伝統が残る地域で住宅を設計する場合、地元の左官職人との協働が設計の核となることがある。かつて土蔵や商家の壁を手がけてきた左官の技術は、新築需要の減少とともに継承する職人が数えるほどしか残っていない地域も多い。

設計の初期段階から職人の工房を訪ね、どんな仕上げが可能か、どんな土が手に入るかを相談することで、思いがけない可能性が開ける。近隣で採取できる土を使った塗り壁を外装に採用すれば、その地域特有の淡い色合いが、夕日を受けて温かみのある表情を見せることもある。

こうした仕事に携わる職人から「こういう仕事は久しぶりだ」という言葉を聞くことがある。技術は使われなければ廃れていく。建築家が地域の技術を設計に取り込むことは、単に見た目の問題ではなく、その土地の技術文化を次世代につなぐ行為でもある。

もちろん、こうしたアプローチには困難も伴う。工期の調整、コストの管理、品質の安定性など、工業製品にはない変数が増える。しかし、その困難を乗り越えたとき、建築は単なる「建物」を超えた存在になる。

経済合理性と固有性のあいだで

正直に言えば、地産地消の建築は、経済的な効率だけを考えれば最適解ではない場合が多い。大量生産された工業製品を使う方が、コストも工期も読みやすい。施工も標準化されているから、トラブルも少ない。

では、なぜあえて地域素材を選ぶのか。私は、そこに「価値の転換」が必要だと考えている。

住宅は30年、50年、あるいはそれ以上の時間をかけて、住まい手とともに歳を重ねていく。その長い時間軸で考えたとき、初期コストの数パーセントの差よりも、住まい手が家に愛着を持ち続けられるかどうかの方が、はるかに重要ではないだろうか。

また、地域素材を使うことは、地元経済への貢献という側面も持つ。建築費のうち、材料費として支払われたお金が地域内で循環すれば、その土地の産業を支えることになる。自分の家を建てることが、同時に地域を支えることにもなる——この感覚は、住まい手にとって大きな意味を持つはずだ。

私は、すべての住宅で100パーセント地産地消を目指すべきだとは思っていない。現実的には、構造材の一部、外装、内装の仕上げなど、部分的に地域素材を取り入れることから始めればよい。重要なのは、「なぜこの素材を選ぶのか」という意識を持つことだ。

均質化する風景への抵抗として

日本の住宅地の風景は、どこへ行っても似たようなものになりつつある。同じメーカーのサイディング、同じ形状のアルミサッシ、同じ色のコロニアル屋根。効率と経済性を追求した結果、私たちは風景の多様性を失いつつある。

私は、地産地消の建築を「静かな抵抗」だと捉えている。それは声高に何かを主張するものではないが、その土地にしかない表情を持ち、時間とともに風景に馴染んでいく。十年後、二十年後、その家は「昔からそこにあったような」存在感を持つようになるだろう。

建築家として設計に携わる際、私はいつも「この建物は、百年後にどう見えるだろうか」と想像する。流行のデザインは古びるが、土地に根ざした素材と技術で作られた建築は、時間の中で美しさを増していく。それは、多くの古い建築から学べることだ。

あなたの足元には、何があるだろうか

住宅を検討されている方に、一つ提案したいことがある。敷地を訪れたとき、少し足を伸ばして、その地域を歩いてみてほしい。古い建物が残っていれば、どんな素材で作られているか観察してみる。地元の建材店や製材所があれば、覗いてみる。もしかすると、その土地ならではの素材や技術が、まだ息づいているかもしれない。

そうした発見が、あなたの家づくりに新しい視点をもたらすことがある。カタログから選ぶのではなく、土地から選ぶ。その転換が、「どこにでもある家」ではなく「この土地にしかない家」を生み出す第一歩になる。

私たちは、グローバル化した世界に生きている。それ自体は否定すべきことではない。しかし、だからこそ、足元にあるものの価値を見直す視点が必要なのではないだろうか。地産地消の建築とは、土地の声に耳を傾け、その固有性を形にする試みである。そこには、効率では測れない、豊かな建築の可能性が広がっている。

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河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

1977年、香川県生まれ。大阪工業大学建築学科卒業後、組織設計事務所で複合施設・商業施設の設計に携わる。2010年、河添建築事務所を設立。東京テクニカルカレッジ非常勤講師も務める。香川・東京を拠点に、「なぜその形か」を問い続ける設計を行う。

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