接合部に宿る職人の知恵——見えない場所の建築美学

接合部に宿る職人の知恵
——見えない場所の建築美学

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

現代建築と伝統工法——接合部に宿る職人の知恵

目に見えない場所にこそ、建築の本質がある

私が若い頃、ある宮大工の棟梁にこう言われたことがあります。「河添さん、建築の良し悪しは、隠れてしまう場所を見ればわかる」と。その言葉の意味を、私は20年以上の実務を経てようやく深く理解できるようになりました。

現代の住宅建築において、構造体の接合部は完成後にはほとんど見えなくなります。壁の中、天井の裏、床の下。そうした場所に、実は建築の本質的な強さと美しさが潜んでいるのです。

私たちKAWAZOE-ARCHITECTSでは、新築住宅の設計において伝統工法の知恵を積極的に取り入れています。それは単なる懐古趣味ではありません。数百年の時間をかけて洗練されてきた技術には、現代の工学では完全には説明しきれない合理性が宿っているからです。

継手と仕口——木と木が出会う場所の哲学

日本の伝統木造建築を支えてきたのは、「継手」と「仕口」と呼ばれる木材同士の接合技術です。継手は木材を長さ方向につなぐ技法、仕口は異なる方向の木材を組み合わせる技法を指します。

たとえば「追掛大栓継ぎ」という継手があります。二つの木材を斜めに加工し、噛み合わせた上から栓を打ち込む。この継手は、引っ張られても押されても、さらにはねじれの力が加わっても、容易には外れません。しかも、木材が経年で痩せていくと、かえって栓が効いて強度が増すという驚くべき特性を持っています。

私が設計した世田谷区のある住宅では、リビングの大空間を支える梁に、この追掛大栓継ぎを採用しました。構造計算上は金物接合でも十分な強度が確保できましたが、あえて伝統工法を選んだのには理由があります。地震時に建物が揺れたとき、木組みの接合部には「遊び」があり、その遊びが衝撃を吸収するのです。これは剛構造とは異なる、柔構造の発想です。

金物に頼りすぎない設計という選択

現代の木造住宅では、接合部に金物を使用することが一般的になりました。確かに金物は施工が容易で、一定の品質を確保しやすいという利点があります。プレカット工場で加工された木材を、現場で金物を使って組み立てる。この方法により、工期は短縮され、コストも抑えられるようになりました。

しかし私は、金物への過度な依存に一抹の不安を感じることがあります。木材と金属では熱膨張率が異なります。湿度による伸縮の挙動も違います。数十年という時間の中で、両者の間にわずかな隙間が生じることは避けられません。

一方、木と木の接合では、同じ素材同士が同じように呼吸し、同じように動きます。経年変化さえも、強度を高める方向に作用することがある。私はこの「時間と共に育つ」という特性に、大きな可能性を感じています。

もちろん、すべての接合部を伝統工法で行うことは現実的ではありません。コストも工期も、現代の暮らしには現代の制約があります。だからこそ私は、構造上の要となる箇所には伝統的な木組みを、それ以外の部分には金物を、という使い分けを提案しています。

職人の手が生み出す「1ミリ以下の調整」

伝統工法の接合部を実現するためには、熟練した職人の存在が不可欠です。私がいつも仕事をお願いしている大工の田中棟梁は、御年67歳。その手は、木材の微妙な反りや捻じれを瞬時に読み取り、鑿と鉋で1ミリ以下の調整を行います。

ある現場で印象的な出来事がありました。田中棟梁が二本の柱を組み合わせようとしたとき、わずかに噛み合わせが甘いことに気づきました。私の目には完璧に見えたのですが、棟梁は「0.3ミリほど当たりが弱い」と言うのです。そして数分の調整の後、二本の柱は吸い付くように組み合わさりました。

このとき木材が発した「パチン」という乾いた音を、私は今でも覚えています。正しく組まれた木組みは、音が違うのです。

こうした職人技は、マニュアル化することが極めて困難です。木は一本一本が異なる個性を持っており、その個性を読み取りながら加工するには、長年の経験と感覚が必要だからです。残念ながら、こうした技術を持つ職人の数は年々減少しています。私たち建築家には、彼らの技術を活かす仕事を生み出し、次世代へと継承していく責任があると考えています。

伝統と革新の接点を探る

私は伝統工法の信奉者ですが、同時に新しい技術にも強い関心を持っています。たとえば最近では、3Dスキャンと CNC加工機を組み合わせることで、複雑な継手の加工を機械化する試みが進んでいます。

昨年、私は京都のある工房を訪ねました。そこでは若い技術者たちが、伝統的な継手のデータベース化と、デジタルファブリケーションによる再現に取り組んでいました。彼らが見せてくれた「金輪継ぎ」のサンプルは、機械加工とは思えない精度で仕上がっていました。

これは職人技の否定ではなく、継承の新しい形だと私は捉えています。職人の手の動きをデータとして記録し、機械がそれを再現する。もちろん、木の個性を読む「目」までは機械化できませんが、少なくとも技術の断絶を防ぐ一つの方法にはなり得るでしょう。

伝統工法の本質は、特定の技法そのものではなく、「木という素材と真摯に向き合う姿勢」にあると私は考えています。その姿勢さえ受け継がれるなら、道具が鑿からCNC加工機に変わったとしても、伝統の精神は生き続けるはずです。

接合部から住まいを考える

住宅を検討されている方々に、私はときどきこんな提案をします。「完成見学会ではなく、構造見学会に足を運んでみてください」と。

壁や床で覆われる前の骨組みの状態を見ることで、その建物がどのような思想で作られているかがわかります。接合部に金物がびっしりと並んでいるのか、それとも木組みの技が見えるのか。大工さんがどのような表情で仕事をしているのか。そうしたことが、完成後の暮らしの質に確実に影響するのです。

もちろん、伝統工法を採用すればコストは上がります。工期も長くなります。しかし、30年、50年という時間軸で住まいを考えたとき、その投資は決して高くないと私は確信しています。

あなたがこれから建てる家には、どのような接合部がふさわしいでしょうか。見えなくなる場所にこそ、あなたの住まいへの想いを込めてみてはいかがでしょうか。目に見えないものを大切にする——それは日本人が古来から持っていた、建築に対する美意識そのものなのですから。

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河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

1977年、香川県生まれ。大阪工業大学建築学科卒業後、組織設計事務所で複合施設・商業施設の設計に携わる。2010年、河添建築事務所を設立。東京テクニカルカレッジ非常勤講師も務める。香川・東京を拠点に、「なぜその形か」を問い続ける設計を行う。

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