家を建てる前に—建築家が伝えたい「住まい」との向き合い方

家を建てる前に—
建築家が伝えたい「住まい」との向き合い方

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

家を建てたいと思ったとき、多くの人はまず「予算はいくらか」「どのハウスメーカーにするか」を考え始める。しかし建築家として長年住宅設計に携わってきた立場から言えば、その順序が家づくりの迷走を生む最初の原因になっている。

「家を建てたい」という気持ちの正体

「家を建てたい」という言葉の奥には、必ず具体的な不満や憧れが潜んでいる。

今の賃貸が手狭になった。子どもに自分の部屋をもたせてやりたい。義父の介護を見据えた同居を考えている。あるいは、ずっと夢見てきた「自分だけの空間」をつくりたい——。

その動機を言語化することが、家づくりの本当の出発点だ。予算や工法の話はその後でいい。「なぜ建てるのか」が曖昧なまま進むと、完成した家が「こんなはずじゃなかった」に変わる。

まず家族全員で「この家で何をしたいか」を話し合ってみてください。リストアップするだけで、必要な空間の輪郭が見えてきます。

予算より先に「暮らし方」を考える

家づくりで最初に予算を決めることは間違いではない。しかし予算だけを基準に動き始めると、「お金の範囲内で収まるもの」を選ぶことになり、本来必要だった空間の質が落ちていく。

私がクライアントとの初回打ち合わせで必ず聞くことがある。

「一日の中で、家のどこにいる時間が一番幸せですか?」

朝のコーヒーを飲むキッチンの窓際。子どもが宿題をするダイニングテーブル。夜、一人で本を読む小さな書斎。その答えの中に、その家族にとって本当に必要な空間が凝縮されている。

暮らし方を先に描いてから予算に落とし込む。その順序が、後悔のない家づくりにつながる。

ハウスメーカーと設計事務所、何が違うのか

家を建てる手段として、ハウスメーカー・工務店・設計事務所という選択肢がある。それぞれに特性があり、どれが正解かは家族の状況による。

ハウスメーカーの強みは、標準化されたプランと施工品質の均一さにある。短期間で決められる安心感と、価格の見通しが立てやすい点は大きなメリットだ。

一方、設計事務所(建築家)に依頼する最大の理由は「固有の課題に対応できる」ことにある。変形した土地、複雑な家族構成、特別な趣味や仕事への対応——標準プランでは解決しにくい問題に、設計という手段で向き合うのが建築家の仕事だ。

設計料が別途かかることを心配する方は多い。しかし設計事務所は施工会社ではないため、工事の相見積もりを取ることができ、トータルコストが予想より抑えられるケースも少なくない。

建築家に相談するタイミング

「まだ漠然としているから、もう少し考えてからにしよう」と思っている方にこそ、早めに建築家に話を聞いてほしい。

土地を買う前の段階で建築家に相談することで、「この土地でどんな家ができるか」「この立地の制約は何か」を設計の視点から評価することができる。土地購入後に設計を始めると、その土地の条件に縛られた選択肢しか残らないことがある。

初回の相談は、多くの設計事務所で無料か低コストで受けてもらえる。「まだ決めていない」という状態でも、専門家と話すことで自分たちの優先順位が整理される。それだけで家づくりは大きく前進する。

家は「完成」ではなく「始まり」

引き渡しの日、施主の顔は決まって複雑な表情をしている。喜びの中に、少しの不安が混じっている。

それは当然だ。家は完成した日から、家族と一緒に時間を刻み始める。子どもが成長するにつれて間取りの使い方が変わる。夫婦の関係が変化する。親との同居が始まる。

良い家とは、その変化を受け止められる余白を持っている家だと思う。完璧に作り込まれた空間より、少し「余地」のある空間の方が、長く豊かに住まえることが多い。

家を建てることは、人生の一章の始まりに過ぎない。だからこそ、最初の選択を丁寧に行ってほしい。

東京の建築家・河添甚に相談する東京の建築家の選び方・口コミ・評判の確認方法

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

1977年、香川県生まれ。大阪工業大学建築学科卒業後、組織設計事務所で複合施設・商業施設の設計に携わる。2010年、河添建築事務所を設立。東京テクニカルカレッジ非常勤講師も務める。香川・東京を拠点に、「なぜその形か」を問い続ける設計を行う。

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