テラゾーの復権——集合素材が見せる現代性

テラゾーの復権——
集合素材が見せる現代性

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

テラゾーの復権——集合素材が見せる現代性

足元に宿る記憶と、その再発見

建築の素材には、時代とともに忘れ去られ、やがてふたたび光を浴びるものがある。テラゾーは、まさにそうした素材の代表格だろう。

テラゾーとは、大理石や花崗岩などの砕石をセメントや樹脂に混ぜ込み、硬化後に研磨して仕上げる複合素材である。イタリア語で「テラス」を意味するこの素材は、15世紀のヴェネツィアで大理石の端材を再利用したことに端を発するとされている。日本においても昭和期のデパートや公共建築の床材として広く使われ、多くの人が幼少期にその光沢のある床の上を歩いた経験を持っているはずだ。しかしいつしかテラゾーは「古い建材」という印象が定着し、新建材やタイルに取って代わられていった。

私がこの素材に改めて目を向けるようになったのは、ここ十数年ほどのことだ。海外のデザインシーンでテラゾーが鮮やかに復活し、それが単なるノスタルジーではなく、きわめて現代的な文脈で再解釈されていることに気づいたからである。

「集合」という思想——一つの素材に閉じないこと

テラゾーの本質は「集合」にある。異なる石種、異なる粒度、異なる色彩の破片が一枚の面のなかに共存し、研磨されることで初めてひとつの表情を獲得する。これは、均質な素材を大量生産する近代建築の論理とは根本的に異なる思想だと私は考えている。

自然石の一枚板には固有の紋様があり、それは唯一無二の美しさを持つ。しかしテラゾーの美しさは、複数の素材が偶然と意図のあいだで混じり合うことによって生まれる。いわば、素材同士の対話の結果としての表面なのだ。

この「集合」としての性質は、現代の建築が向かおうとしている方向と深く響き合っている。多様な要素が共存するまちの姿、異なるバックグラウンドを持つ人びとが暮らす住まいのあり方——テラゾーの表面は、そうした混交の美学を物質のレベルで体現しているとさえ言えるだろう。

現場で感じるテラゾーの設計的可能性

実務の中でテラゾーに触れてきた経験から言えば、この素材の設計的可能性は「色」「粒度」「バインダー」の三つの変数の組み合わせにある。

まず色について。骨材に使う石の種類を変えるだけで、テラゾーの表情は劇的に変化する。白大理石の砕石を白セメントに混ぜれば柔らかく静謐な面が生まれ、黒御影石と真鍮の粒を組み合わせれば重厚でありながら華やかな面になる。私が住宅の玄関ホールにテラゾーを提案する場合、その家全体の空気感を凝縮するように骨材の配合を検討する。足を踏み入れた瞬間の印象を、床の一面に託すわけである。

次に粒度。粗い骨材を使えばダイナミックな表情となり、細かい骨材であれば滑らかで上品な仕上がりになる。同じ石種であっても、砕き方の粗さひとつで空間の印象がまったく異なるものになることを、私はいくつもの現場で実感してきた。

そしてバインダー。従来のセメント系に加え、近年ではエポキシ樹脂系のテラゾーが普及し、厚みを薄くできるようになった。これは既存建物の改修において特に有利で、床レベルを大きく変えることなくテラゾーの表情を導入できる。壁面やカウンタートップにも展開しやすくなり、テラゾーが「床材」という枠を超えて空間全体を包む素材として使われるケースが増えている。

サステナビリティとテラゾーの親和性

テラゾーが再評価されている背景には、持続可能性への意識の高まりも大きい。

そもそもテラゾーは、石材加工の過程で出る端材や廃材を再利用するところから生まれた素材である。この「廃材から美をつくる」という原理は、資源の有限性が強く意識される現代において、きわめて説得力を持つ。近年では、廃ガラスやリサイクルされた貝殻、さらには廃棄されたプラスチックを骨材に用いるテラゾーも開発されており、素材の循環という観点からも注目されている。

また、テラゾーは耐久性が高い。適切に施工されたテラゾーの床は数十年にわたって使い続けることができる。昭和期に施工されたデパートの床が、今なお美しい光沢を保っている例を見かけた方も少なくないだろう。頻繁な張り替えを前提としない素材であること自体が、環境負荷の低減につながるのである。

私は住宅設計においても、この耐久性を重要視している。住まいは何十年と使い続けるものであり、経年によって劣化するのではなく、時間とともに深みを増す素材を選びたい。テラゾーの研磨面は、日々の歩行や清掃によって徐々に独特の艶を帯びていく。それは「エイジング」というよりも「成熟」と呼びたい変化だ。

住宅におけるテラゾーの居場所

テラゾーを住宅に採用する場合、私がまず検討するのは玄関と水回りである。

玄関は、外と内が切り替わる結界のような場所だ。その床に表情豊かなテラゾーを敷くことで、日常の動線のなかに小さな「迎え入れの儀式」が生まれる。一般的なタイルとは異なり、テラゾーには目地がない。一枚の大地のように連続する面が足元に広がる感覚は、空間の品格を静かに底上げする。

洗面所や浴室まわりも、テラゾーが力を発揮する場所である。水に強く、清掃性も高いこの素材は、衛生的な要求と意匠的な豊かさを両立させてくれる。洗面カウンターの天板をテラゾーで製作した場合、骨材の粒が水に濡れてわずかに色を深める瞬間がある。日常のなかで素材が見せる、そうした些細な変化を楽しめることが、自然素材を住まいに取り入れる醍醐味だと思う。

もちろん注意点もある。現場打ちのテラゾーは、施工者の技量と養生環境に品質が大きく左右される。また研磨工程に時間とコストがかかるため、プレキャストのテラゾータイルを活用するなど、プロジェクトの予算と要求品質のバランスを見極める判断が設計者には求められる。こうした現実的な条件をきちんと引き受けたうえで、素材の魅力を最大限に引き出すのが建築家の仕事だと私は思っている。

素材を選ぶことは、時間を選ぶこと

テラゾーの復権は、建築における素材選びの意味を改めて問い直す契機になっている。私たちが一枚の床を選ぶとき、そこには色やテクスチャーだけでなく、その素材がどのような時間を生きてきたか、そしてこれからどのような時間を生きていくかという問いが含まれている。

何百年も前にヴェネツィアの職人たちが端材を集めて磨き上げたとき、彼らは「廃材を美に変える」という行為の革新性を意識していなかっただろう。しかしその素朴な知恵が、数世紀を経た今、サステナビリティや多様性という現代の文脈のなかで新たな意味を帯びている。素材とは、そうした時間の厚みを蓄積する器なのだ。

住まいの床や壁に何を選ぶか——それは単なるインテリアの問題ではなく、自分たちがどのような時間と向き合って暮らしたいかを表明する行為でもある。テラゾーという集合素材が見せる現代性は、あなたの住まいにおいて、どんな意味を持ちうるだろうか。

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

1977年、香川県生まれ。大阪工業大学建築学科卒業後、組織設計事務所で複合施設・商業施設の設計に携わる。2010年、河添建築事務所を設立。東京テクニカルカレッジ非常勤講師も務める。香川・東京を拠点に、「なぜその形か」を問い続ける設計を行う。

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