無垢フローリングの樹種選びと経年変化

無垢フローリングの
樹種選びと経年変化

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

無垢フローリングの選び方——樹種と経年変化の設計論

床は「触れる建築」である

住宅設計において、私がもっとも時間をかけて施主と対話するのが床材の選定である。壁や天井は視覚で捉える要素だが、床は違う。素足で歩き、座り、時に寝転がる。子どもたちは這い回り、ペットは爪を立てて駆け回る。床は文字通り「触れる建築」なのだ。

無垢フローリングを選ぶとき、多くの方は「見た目」から入る。ショールームで並んだサンプルを眺め、「この色がいい」「この木目が素敵」と決めていく。もちろんそれは大切な要素だが、私は常に「10年後、20年後の姿」を想像してほしいとお伝えしている。無垢材は生きている。呼吸し、変化し、住まい手とともに年を重ねていく。その経年変化をどう設計に組み込むかが、建築家としての腕の見せどころだと考えている。

樹種選びの基本——硬さ・色味・木目の三軸で考える

無垢フローリングの樹種は、大きく針葉樹と広葉樹に分けられる。杉や檜、パインといった針葉樹は柔らかく温かみがあり、素足での感触が心地よい。一方、オーク、ウォールナット、チェリー、メープルといった広葉樹は硬く、傷がつきにくい耐久性を持つ。

私が設計で樹種を提案する際は、三つの軸で整理している。

一つ目は「硬さ」。これは生活スタイルと密接に関わる。小さなお子さんがいる家庭、ペットと暮らす家庭では、ある程度の硬さがあった方が傷を気にせず暮らせる。逆に、夫婦二人でゆったりと暮らす住まいなら、杉の柔らかな踏み心地を楽しむ選択もある。

二つ目は「色味」。明るいトーンのメープルやバーチ、中間色のオークやタモ、深い色味のウォールナットやチェリー。空間全体の光の入り方、家具との相性、そして何より「経年でどう変化するか」を見据えて選ぶ必要がある。

三つ目は「木目」。はっきりとした木目が好きならオークやタモ、穏やかな表情を求めるならメープルやバーチ。木目の強弱は空間の「賑やかさ」に直結する。ミニマルな空間を目指すなら木目は控えめに、温かみのある空間なら木目を活かす。この判断は、壁や家具とのバランスの中で決まっていく。

経年変化という「もう一つの設計」

無垢材の醍醐味は、何といっても経年変化にある。これを「劣化」と捉えるか「成熟」と捉えるかで、住まいへの愛着は大きく変わる。

私がよく使うチェリー材を例に挙げよう。施工直後のチェリーは、淡いピンクがかった褐色をしている。しかし、光を浴びるうちに驚くほど深い飴色へと変化していく。一年も経てば、まるで別の樹種かと思うほどの変貌を遂げる。この劇的な変化を知らずに選んでしまうと、「思っていた色と違う」という後悔につながりかねない。

逆に、ウォールナットは濃い色味から始まり、時間とともにやや明るく落ち着いていく。オークは黄味を帯びながらゆっくりと深みを増し、杉は銀灰色の渋い表情へと変わっていく。

私は設計の打ち合わせで、必ず「新材」と「経年後」のサンプルを並べてお見せしている。そして「どちらの表情が好きですか」と問いかける。今この瞬間の美しさを選ぶのか、10年後の姿に惚れ込むのか。その答えによって、樹種の選択は自ずと変わってくる。

暮らしの傷も設計のうち

無垢フローリングに傷はつきものだ。これを「欠点」と考えるか「味わい」と考えるかも、住まい手の価値観による。

正直に申し上げると、傷を一切つけたくないという方には、無垢材はおすすめしにくい。どんなに気をつけていても、椅子の引き摺り跡、物を落とした凹み、水滴の染みは生じる。しかし私は、それらを含めて「その家族だけの床」になっていくのだと考えている。

あるお施主様の家を五年後に訪ねたとき、リビングの床には無数の小さな傷があった。「子どもたちがミニカーを走らせた跡なんです」と笑いながら教えてくれた。その傷跡は、確かに「傷」ではあるが、同時にその家族の五年間の記憶でもある。私はその床を見て、美しいと感じた。

傷が気になりにくい樹種を選ぶという方法もある。オークやタモは木目がはっきりしているため、傷が目立ちにくい。逆にメープルのような均一な表情の木は、傷が目につきやすい。こうした特性を理解した上で選ぶことが大切だ。

塗装仕上げで変わる「育ち方」

無垢フローリングの仕上げは、大きく分けてオイル仕上げとウレタン塗装がある。この選択によって、床の「育ち方」はまったく異なる。

オイル仕上げは木の表面に油分を浸透させる方法で、木の呼吸を妨げない。触れたときの自然な感触、経年での美しい変化、補修のしやすさがメリットだ。傷がついても部分的にオイルを塗り直せば、馴染んでいく。ただし、定期的なメンテナンスは必要になる。

ウレタン塗装は木の表面に薄い膜を張る方法で、汚れや水に強い。お手入れは楽だが、木本来の質感は少し損なわれる。傷がついた場合の部分補修は難しく、経年変化も穏やかになる。

私の設計では、リビングや寝室などゆっくり過ごす空間にはオイル仕上げを、キッチンや洗面所など水を使う場所にはウレタン塗装を使い分けることが多い。あるいは、全体をオイル仕上げにして「この家は床を大切に育てていく」という暮らし方を提案することもある。どちらが正解ということではなく、その家族の暮らし方に合った選択をすることが重要だ。

床は住まいの「基準点」になる

私が設計において床材を重視するのは、床が空間の「基準点」になるからだ。壁の色、建具の素材、家具の選定——すべては床との関係性の中で決まっていく。明るいメープルの床に濃い色の家具を合わせればコントラストが生まれ、ウォールナットの床に革のソファを置けば落ち着いた調和が生まれる。

無垢フローリングは決して安い買い物ではない。だからこそ、表面的な好みだけでなく、経年変化、生活スタイル、メンテナンスへの姿勢まで含めて、じっくりと考えてほしい。

あなたは10年後、20年後、どんな床の上で暮らしていたいだろうか。新築のように傷のない床か、家族の歴史が刻まれた床か。その答えの中に、あなたにとっての「正しい樹種」が見えてくるはずだ。

東京の建築家・河添甚に相談する

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

1977年、香川県生まれ。2002年に大阪工業大学工学部建築学科を卒業。2010年、河添建築事務所に参画し代表に就任。香川・東京の二拠点を構え、住宅から商業建築まで幅広い設計を手がける。

NEXT STEP

床材選びから始める
家づくり相談

無垢フローリングの樹種選定から施工まで、素材を熟知した設計者がご相談に応じます。まずはお気軽にお問い合わせください。

コラム一覧へ