縮退するまち——人口減少時代の建築と都市設計

縮退するまち——
人口減少時代の建築と都市設計

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

縮退するまち——人口減少時代の建築と都市設計

増えない、という前提からどう設計するか

建築家として仕事を続けていると、依頼の性格が少しずつ変わってきていることに気づく。「もっと大きくしたい」という要望が減り、「うまく小さくしたい」という相談が増えた。

これは個人の住宅だけの話ではない。まちのスケールでも、同じことが起きている。

日本の人口は2008年をピークに減少局面に入った。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2050年には1億人を割り込み、2100年には6000万人程度にまで減少するとも言われる。地方都市ではすでに、空き家率が30%を超える地域が出現している。

建築家は、この現実にどう向き合うべきか。「縮退(shrinkage)」をネガティブな状況として受け止めるのではなく、新たな設計の可能性として問い直す視点が求められている。

縮退するまちで何が起きているか

人口が減るということは、単に人の数が減るだけではない。まちのあらゆる側面に連鎖的な変化をもたらす。

空き家・空き地の増加

日本全国の空き家数は2023年時点で約900万戸に迫る。空き家率は約13.8%。7〜8軒に1軒が空き家という計算だ。

かつては整然としていた住宅地も、ところどころ空き地が生まれ、使われていない建物が増えると、まち全体の維持管理コストが上がり、防犯・防災上のリスクも高まる。

インフラの維持限界

道路、水道管、下水道、橋——これらのインフラは高度成長期に一斉に整備された。老朽化が進む中、人口が減れば維持費を分担する税収も減る。全てのインフラを維持し続けることは、現実には不可能になりつつある。

一部の自治体では、居住エリアを集約させる「コンパクトシティ」政策を推進している。インフラを集中させることで維持コストを抑えながら、生活の利便性を保とうという試みだ。

商業・公共施設の撤退

人が減ればスーパーが閉まり、病院が遠くなり、学校が統廃合される。これらの撤退は残った住民の生活の質を直撃する。施設の空白地帯が生まれ、さらに人が出て行く——縮退はこうした悪循環を伴いやすい。

建築家の役割——「残す」と「変える」の論理

縮退するまちで建築家ができることは何か。大きく分けて「残す」と「変える」の二つの方向性がある。

既存建物の保存・活用

空き家を放置すれば廃墟になるが、適切に改修すれば価値を取り戻せる。古民家のリノベーション、空き商店をコミュニティスペースへ転用、廃校を活用した宿泊施設——こうした事例が全国で生まれている。

既存の建物に新たな用途を与えることは、その土地の記憶を継承しながら現代の需要に応えることだ。新しく建てることより、残すことのほうが文脈を持ちやすい。

しかし保存・活用には限界もある。耐震性能の問題、断熱性能の低さ、現代の法規への適合——古い建物には多くのハードルがある。建築家の技術と創意が、これらの課題を乗り越えるために求められる。

スローダウンの設計——時間軸を変える

縮退するまちに必要なのは、「早く作る」ではなく「長く使える」設計かもしれない。

スクラップアンドビルドを繰り返す20〜30年周期の建物ではなく、50〜100年先まで使い続けることを前提とした設計。素材の選択、構造の耐久性、将来の用途変更への対応——これらを設計段階から考えることが、縮退時代の建築の責務だと感じている。

密度の再配置——縮退を設計するとは

コンパクトシティという概念がある。人口が減っても、都市機能を一定エリアに集約することで生活水準を維持しようという発想だ。

しかし単純な「集約」は、そう簡単ではない。長年そこに住んできた人を別の場所へ移すことは、コミュニティの分断を生む。地縁・血縁・記憶——こうした目に見えない価値を、都市計画はどう扱うのか。

私が関心を持っているのは、「密度の勾配」という考え方だ。まちの中に、高密度の中心と低密度の周縁を意図的に設計する。周縁が「空白」ではなく、農地や緑地、コモンズ(共有地)として機能するように誘導する。

人が減ることで生まれる「余白」を、次の世代のための資源として捉え直す——そんな長期的な視点が、縮退するまちの設計には必要だ。

香川から東京へ——二拠点で見えるもの

私は香川と東京を行き来しながら仕事をしている。この二つの場所は、縮退と成長という対比を体感させてくれる。

香川では、古い農家が空き家になり、後継者のいない工務店が廃業し、かつての商店街が静かになっていく様子を目にする。しかし同時に、外から移住してきた若い世代が古民家を改修して暮らし始め、新しいコミュニティが生まれている場所も知っている。

東京では、開発が続き、建物が建て替えられ、人が集まる。しかし東京でも、区によっては人口減少が始まっている。

縮退は地方だけの問題ではない。そう遠くない将来、都市の設計者も同じ問いに向き合うことになる。

まちの「終わり方」を設計するということ

建築の設計には始まりがある。敷地を測り、プログラムを組み、図面を引き、建物が立ち上がる瞬間——これが従来の設計の物語だ。

しかし縮退時代には、「終わり方」を設計することも建築家の仕事になりつつある。

建物をどうやって解体するか、素材をどう再利用するか、跡地をどう活用するか——こうした「出口の設計」を最初から考えることが、負の遺産を生まないための知恵だ。

まちが縮退していく過程を、衰退の物語ではなく、より豊かな暮らしのかたちへの移行として描けるか——建築家にはその想像力と技術が問われている。増えることを前提としてきた設計の思想を、根本から問い直す時代が来ているのかもしれない。

→ 建築家・河添甚のプロフィール

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

1977年、香川県生まれ。大阪工業大学建築学科卒業後、組織設計事務所で複合施設・商業施設の設計に携わる。2010年、河添建築事務所を設立。香川・東京を拠点に、「なぜその形か」を問い続ける設計を行う。

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