AI時代の設計論——デジタルツールが変えるもの、変えられないもの

AI時代の設計論——
デジタルツールが変えるもの、変えられないもの

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

AI時代の設計論——デジタルツールが変えるもの、変えられないもの

設計事務所に「生成AI」が入ってきた

2年前から、私の設計プロセスにAIが入り込んでいる。正確には、入り込まざるを得なくなっている。

画像生成AIでパース(透視図)のラフスタディを行い、文章生成AIで提案書の初稿を組み立て、BIMソフトウェアのAI支援機能で干渉チェックと法規判定を補助する。建築設計の現場でも、AIは確実に存在感を増している。

学生時代の私は、手描きのスケッチから設計を始めた。鉛筆で描いた線の緊張感、消しゴムのかすがたまる机の感触——それが設計の原点だと思っていた。今、スケッチはタブレット上で描かれ、パースはAIが秒単位で生成する。

これは退化なのか、それとも進化なのか。私はこの問いを、自分自身に何度も投げかけてきた。

AIが変えた設計プロセス——何が加速したか

実務の観点から、AIの導入が設計プロセスに何をもたらしたかを整理したい。

初期スタディの高速化

以前は、設計初期に複数の案を手描きやCADでスタディするとき、1案のスタディに半日から1日かかることがあった。

今は画像生成AIを使い、テキストや手描きのスケッチを与えるだけで、異なる素材感・ボリューム・雰囲気の案を短時間で複数生成できる。

これは施主との初期合意形成を大きく変えた。「こういうイメージですか」「それともこっちに近いですか」という対話が、言葉ではなく画像で行えるようになった。施主が言語化できていなかった好みが、AIが出した案への反応から明確になることもある。

法規確認・数量計算の補助

建築確認申請に必要な法規の確認、構造計算の前提となる荷重計算、仕様書の作成補助——こうした繰り返しの多い作業にAIが使われることが増えた。

ミスが減り、スピードが上がる。事務所の規模が小さくても、以前は外注していた作業の一部を内製できるようになった。

施主への説明資料の充実

住宅設計では、施主に「なぜこの形になるのか」を説明する資料の質が重要だ。AIによる文章生成や図解生成の支援で、わかりやすい提案書が以前より短時間で作れるようになった。

AIが変えられないもの——設計の本質とは何か

では、AIは設計の何を変えられないのか。私が今も確信しているのは、以下の点だ。

「なぜこの形か」という問いへの答え

建築の形には理由がなければならない。敷地の形状、周辺の文脈、施主の暮らし方、気候、構造——これらを総合的に判断した上で、「なぜこの形か」を言語化できること。それが設計者の仕事だ。

AIはデータから「それらしい形」を生成することはできる。しかし、特定の敷地と特定の施主のための「必然の形」を問い続けることはできない。判断と根拠を持つのは、あくまで設計者だ。

施主との対話——見えていないものを引き出す

設計の仕事の大半は、施主との対話だ。「広いリビングが欲しい」という要望の裏に、「家族が一緒にいる時間を増やしたい」という本当の望みが隠れていることがある。「収納が足りない」という不満の背景に、「片付けられない自分への罪悪感」があることもある。

こうした言葉の背後にある感情や価値観を、対話を通じて引き出すことは、建築家の仕事の核心だ。AIはそこに入り込めない。

「場所」への感応力

設計はいつも、特定の場所から始まる。敷地を歩き、風の向きを感じ、隣の建物の圧迫感を体で受け止め、遠くに見える山の形を目に焼き付ける——この感応の行為は、デジタルツールでは代替できない。

私は敷地を初めて訪れるとき、意識してしばらく何もせずにその場所に立つ。何を感じるかを、体と感覚で受け取るために。この行為こそが、その場所にしかない設計の出発点になる。

AIとの共存——道具としての正しい使い方

AIを「すごいツール」として過大評価するのも、「本物の設計ではない」として拒絶するのも、どちらも正しくないと思っている。

AIは優れた道具だ。しかし道具は、使う人間の思想を超えることはない。

よい大工は、道具の性質を熟知しながら、木の声を聞いて鑿を入れる。よい建築家も同様に、AIの性質を知りながら、場所と施主の要求に正直に向き合う。道具の豊富さが、設計の質を保証するわけではない。

私が若い建築家や学生に伝えたいことがある。AIが「それらしい形」を生成する前に、自分の手でスケッチを描いてほしい。AIに答えを出させる前に、自分の問いを明確にしてほしい。

道具に先に走られると、問いを持たないまま答えだけが増えていく。その状態は、設計ではなく「生成」だ。

設計の未来——問いを持ち続けることの価値

AIの進化は止まらない。10年後の設計事務所は、今とは全く違う姿になっているかもしれない。

しかし、どれほどツールが変わっても、「なぜその形か」「誰のための空間か」「その場所と時代で何をつくるべきか」——こうした問いを持ち続けることが、建築家の核心だと私は信じている。

技術が人間の能力を拡張するとき、人間はより本質的な問いに集中できるはずだ。AIが「解く」作業を引き受けてくれるなら、建築家は「問う」ことにより多くのエネルギーを使えばいい。

変化の時代に求められるのは、道具の使い手として賢くあることと、問いを持つ思索者であり続けること——その両方だと思っている。

→ 建築家・河添甚のプロフィール

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

1977年、香川県生まれ。大阪工業大学建築学科卒業後、組織設計事務所で複合施設・商業施設の設計に携わる。2010年、河添建築事務所を設立。香川・東京を拠点に、「なぜその形か」を問い続ける設計を行う。

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