地方で建てるということ——東京以外の建築の可能性

地方で建てるということ——
東京以外の建築の可能性

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

地方で建てるということ——東京以外の建築の可能性

「地方」という言葉への違和感

「地方で建てる」という言い方に、私はずっと違和感を覚えてきた。

東京を基準として、それ以外を「地方」と呼ぶ構造——これは建築においても再考が必要だと思っている。香川に生まれ、香川を拠点にして20年近く設計を続けてきた立場から言えば、この場所には東京にはない固有の豊かさがある。

気候・地形・素材・職人・文化的背景——これらがすべて異なる場所で同じ建築を作ることはできない。そして、できないことに意味がある。場所の固有性に応答した建築こそが、長く時代を超えて記憶される建築になる。

気候が建築を決める

日本は南北に長く、気候が多様だ。北海道の極寒・豪雪と沖縄の高温多湿では、同じ工法・素材では対応できない。

香川・瀬戸内地域の気候的特徴は「少雨・日照豊富・温暖」だ。年間降水量が全国で最も少ない地域の一つで、夏の日差しが強く、冬の寒さは比較的穏やかだ。

この気候への応答として、香川の伝統的な民家には深い軒と縁側が発達した。強い直射日光を遮りながら、半屋外の居場所を確保する——この形は気候への合理的な応答だ。現代の住宅でも、この「深い軒」を設計に取り込むことで、夏の冷房負荷を減らしながら豊かな半屋外空間を作れる。

寒冷地では逆の発想が求められる。断熱性能の最大化、開口部の最小化と熱損失防止——北海道の住宅が世界トップレベルの断熱性能を持つのは、気候への真剣な応答の結果だ。

気候は制約ではなく、設計のヒントだ。

地産素材という思想

東京の建築設計では、素材はカタログから選ぶことが多い。全国流通する建材、輸入タイル、海外のサッシ——これらは品質が安定しているが、「どこでも同じもの」だ。

地方では、地域固有の素材にアクセスできる機会がある。

香川には「庵治石」という国際的に評価される花崗岩の産地がある。きめ細かく硬質で、磨けば鏡面のような光沢を持つこの石は、世界中の建築家が注目する素材だ。地元で建てるとき、この石を外構・床・カウンターに使うことで、「ここでしかできない建築」が生まれる。

岐阜の美濃和紙、沖縄の琉球石灰岩、能登の珪藻土——それぞれの地域に、その土地の気候と文化から生まれた固有の素材がある。建築がその素材を使うことは、地域の産業・職人・文化の継承にもつながる。

職人との関係

東京で設計をするとき、施工は大手ゼネコンや工務店が担うことが多い。職人は下請け・孫請けの構造の中にいて、設計者が直接顔を見ることがない場合もある。

地方では、職人との距離が近い。左官職人、大工、石工——彼らと現場で話しながら設計を進めることができる。

これは単なる距離の問題ではない。職人の技術と設計の意図が直接対話できるとき、より精度の高い仕事が生まれる。「この柱の仕口(きぐち)はこう組みたい」「この壁の仕上がりは手で触って確かめてほしい」——こうしたコミュニケーションが、建築の質を上げる。

同時に、地方では熟練した職人の数が減少しているという現実もある。伝統的な左官技術、組石造の知識——これらを継承する職人が少なくなっていくことは、地方の建築の可能性を狭めることに直結する。設計者として、できる限り地域の職人と仕事をすることは、文化の継承への参加でもある。

「東京基準」からの解放

東京で建築を学んだ学生の多くが「地方には良い建築がない」という先入観を持っていることがある。しかし、これは東京にある建築雑誌や展覧会が示す建築の偏りから来るバイアスだ。

地方には、知られていない優れた建築が数多くある。地元の気候と素材に応答した民家、農村の倉庫、港の船小屋——これらは設計者の名前を持たないが、長い時間をかけて最適化された「土地固有の形」だ。

「世界的に有名な建築家の作品」や「建築雑誌に掲載される住宅」だけが良い建築ではない。使う人が長く愛し、土地の風景に溶け込み、気候に誠実に応える建築——これは東京以外の場所で、より純粋な形で実現できる条件がある。

地方で建てることの意味

私が香川で建築の仕事を続けている理由は、この場所の固有性を設計に活かしたいからだ。

瀬戸内の光の質、潮風、庵治石の質感、地元の大工が持つ木への感覚——これらは東京では得られないものだ。この場所にいることで設計できる建築がある。

地方で建てることは、制約ではなく可能性だ。東京基準の「正解」を移植することではなく、その土地の条件から「ここにしかない答え」を見つけること——それが建築家の仕事であり、地方で建てることの本質的な意味だと私は思っている。

→ 建築家・河添甚のプロフィール

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

1977年、香川県生まれ。大阪工業大学建築学科卒業後、組織設計事務所で複合施設・商業施設の設計に携わる。2010年、河添建築事務所を設立。香川・東京を拠点に、「なぜその形か」を問い続ける設計を行う。

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