犬島精錬所美術館|産業遺構を活かす保存と更新のデザイン考

犬島精錬所美術館|産業遺構を活かす保存と更新のデザイン考

2019年8月22日

今回の建築ツアーのメインでもある犬島精錬所美術館。犬島に残る銅製錬所の遺構を保存・再生し、環境と調和する形で現代アートと建築が融合した施設です。雨天でしたが、廃墟の質感と瀬戸内の柔らかな光が相まって、より印象的な体験となりました。

犬島精錬所美術館

かつての産業遺構を生かしつつ、最小限の新しい構築物で動線・遮光・通風を整えたミュージアム。歴史の痕跡と先進的なディテールが同居し、フレーム越しに切り取られる瀬戸内の風景が展示と呼応します。

豊島から犬島へ——船内から望む精錬所のシルエット
豊島から犬島へ移動する船内より、海越しに精錬所のシルエットを臨む。
犬島港に到着——島の玄関口
犬島港に到着。島のスケールに呼吸を合わせるように歩き始める。
豊島—犬島を結ぶ高速旅客船サンダーバード
豊島と犬島を結ぶ高速旅客船。移動自体が体験のプロローグ。
フェリー乗場から精錬所へ続くアプローチ
フェリー乗場からのアプローチ。雨で濡れた土の匂いが、遺構の質感を際立たせる。
犬島精錬所美術館のゲート
エントランスの門扉。産業施設の名残がそのまま案内サインとなる。
煉瓦造の既存煙突——犬島のランドマーク
場内に入るとすぐに煉瓦造の既存煙突。時間の層を物語る垂直要素。
瀬戸内海に面した精錬所の沿岸部
瀬戸内海沿いの抜群のロケーション。海と遺構がフレーム越しに重なる。
遺構の隙間に見える新設のガラスボリューム
廃墟の“余白”にガラスのボリュームを差し込む構成。新旧の対話が始まる。
犬島精錬所美術館——歴史と先進性の融合
先進性と歴史の融合。素材とスケールの繊細なチューニングが心地よい。
開口フレームが切り取る外部風景
開口のフレームが光と風景を編集し、展示と等価な“場”を生む。
ガラス屋根と日除け布で調光されたロビー空間
ガラス屋根+日除け布でやわらかく拡散するトップライト。屋外と連続する明るさ。
壁面に設置された施設模型
壁面の施設模型。敷地全体の地形と動線の読み替えがよく分かる。
休憩所上部のハイサイドライト
ハイサイドの開口が光と視線をコントロール。閉じすぎない“居場所”をつくる。
休憩所の出入口フレーム
出入口のフレームが遠景の海を切り取り、移ろう天候を展示化する。
映画のセットのような遺構群
映画のセットのような遺構群。スケールの対比が歩行体験を豊かにする。
見る方向で表情を変える遺構と煙突群
回遊に伴い見え隠れする煙突群。視線の“間”が構成の要。
稜線が空を切り取る増築部
下方から望む増築部。稜線が空を切り取り、敷地の等高線をなぞる。
ガラス屋根の反射で風景へ溶け込むボリューム
ガラス屋根が空と海を拾い、ボリュームを風景へ溶かす。
空と海の色を映すガラス屋根
空と海の色調がそのまま屋根に映り込み、境界が曖昧になる。
資材置き場越しの瀬戸内海
瓦礫と海。廃と生のコントラストがこの場の力を増幅する。
上部動線から見下ろす既存煙突
上部テラスから見下ろす煙突。立体的な回遊で視点が連続的に反転する。
崩れ落ちた瓦礫——時間の堆積
崩れ落ちた瓦礫のテクスチャ。保存と更新のバランスを思考させる。
既設施設上部からの全景
既設施設上部からの全景。地形と建築が重なるレイヤーが見えてくる。
自然と一体化する要塞のような遺構
緑に浸食される遺構。自然回復力と建築の残像が共存。
遺構上部から瀬戸内海を望む
遺構の上から瀬戸内海を望む。海風と錆の匂いが混ざる場所。
二本の煙突が並ぶフレーム——奥に瀬戸内海
二本の煙突が重なる視点。遺構と海景が一枚の画になる瞬間。
既存構造のトンネル状通路
高低差を活かす回遊。トンネル状の通路が過去と現在をつなぐ。
廃墟化した既存施設の一部
朽ちの表情をそのまま受け止める設計態度。足すよりも“残す”。
犬島精錬所から望む穏やかな瀬戸内海
展示室を抜けた先、音も光もやさしくなる。
帰路の船内から振り返る犬島精錬所美術館
帰路の船内から振り返る。風景の中に静かに沈む建築。

所感|遺構を“読む”設計

遺構の空隙へ最小限に介入し、光・風・視線を繋ぎ直すことで、保存/再生/更新のバランスを高い精度で成立させている印象でした。フレームの切り取りやガラス屋根の反射は風景を建築に招き込み、回遊のテンポが時間の層を浮かび上がらせます。建築的には「足す」のではなく「活かす」姿勢が貫かれており、学ぶ点の多い視察となりました。