床を踏んだとき、家のことを好きになる瞬間がある。
ひんやりした大理石でも、均一な複合フローリングでもなく、無垢材の床を素足で歩いたときの、あの感覚だ。柔らかく、少し温かく、足の形に沿う。説明しにくいが、確かにそこにある。
20年、住宅を設計してきて、床材の選択ほど「10年後の後悔」を左右するものはないと感じている。
無垢材とは何か
「無垢材」とは、一本の木から切り出した、継ぎ目のない天然の木材のことだ。
対義語は「複合フローリング」や「突き板フローリング」——合板や集成材の表面に、薄い天然木のシートを貼り付けたものだ。見た目は似ているが、踏んだときの感触、年月を経たときの変化は全く異なる。
無垢材の最大の特徴は、生きていることだ。温度や湿度によって膨張・収縮する。季節によって僅かに隙間が広がったり、縮まったりする。傷がつき、色が変わり、使い込むほどに艶が出る。これを「欠点」と見るか「味」と見るかで、無垢材との付き合い方が変わる。
樹種が決める「足ざわり」と「色」
無垢材といっても、樹種によって性格は全く異なる。
オーク(ナラ) は硬く、耐久性が高い。木目がはっきりしていて、空間に落ち着きをもたらす。経年で飴色に変化し、使い込むほどに深みが出る。最もよく選ばれる樹種のひとつだ。
ウォールナット は濃い褐色の高級材。重厚感があり、モダンな空間にも合う。ただし価格は高め。逆に、年月が経つと少し色が明るくなる——他の木材と逆の経年変化が起きるのがウォールナットの特徴だ。
パイン(松) は柔らかく、温かみがある。素足で歩いたときの気持ちよさは群を抜く。ただし柔らかいだけに傷がつきやすい。これも「傷が歴史になる」と捉えれば、味のある床になる。
スギ・ヒノキ は日本の気候風土に合う国産材だ。軽く、香りが良く、調湿効果も高い。足ざわりの柔らかさはパインと並ぶ。地域材を使った家づくりにも適している。
床材の選択は、間取りや内装の方向性が決まる前から相談いただくと、空間全体との調和を考えた提案ができます。初回相談は無料です。
「傷がつく」を怖がらないために
無垢材を検討する施主に必ず聞かれることがある。「傷がつきやすくないですか?」
傷はつく。それは事実だ。特に子どものいる家庭では、引っ掻き傷や凹みは避けられない。
しかし私はこう伝えている。「傷は、そこで暮らした記録です」と。
複合フローリングの傷は、表面の印刷層が剥がれ、内側の合板が見えてしまう。見た目が一気に悪くなる。一方、無垢材の傷は、木そのものへの傷だ。色が変わらず、周囲の木と同じように経年変化していく。傷が目立たなくなっていく、という言い方もできる。
さらに無垢材には、修復できるという強みがある。深い傷や凹みは、サンドペーパーで削り、再塗装することで復元できる。複合フローリングにこの手は使えない。
メンテナンスの現実
無垢材の維持には、多少の手間がかかる。
オイル仕上げの場合、1〜2年に一度、専用オイルを塗り込む必要がある。所要時間は6畳で1〜2時間ほど。慣れれば難しくないが、手間と感じる人もいる。
ウレタン塗装の場合、表面をコーティングするため、オイル仕上げほどのメンテナンスは不要だ。ただし木の質感がやや失われ、経年での修復がしにくくなる。
どちらを選ぶかは、暮らし方と価値観による。「木と一緒に歳を取りたい」という方にはオイル仕上げを、「なるべく手間をかけたくない」という方にはウレタン塗装を勧めることが多い。
複合フローリングを選ぶ理由
無垢材を勧める一方で、場所によっては複合フローリングを選ぶこともある。
水回り——洗面所や脱衣所——は、無垢材には向かない。水濡れによる膨張・変形が起きやすく、カビのリスクもある。こうした場所では、耐水性の高い複合フローリングや、タイルを選ぶほうが合理的だ。
また、床暖房との相性も考慮が必要だ。無垢材は床暖房と組み合わせられる樹種が限られる。乾燥や変形のリスクがある樹種もあるため、設計段階での検討が欠かせない。
足元が決める、家の温度
床は家の中で最も面積の大きな素材だ。そして毎日、直接触れる素材でもある。
壁や天井は目で見るが、床は足で感じる。その感触が、家全体の印象を決める。
無垢材は、価格も高く、手間もかかる。しかし10年後、20年後に「この床にしてよかった」と感じる施主の多さは、他の素材と比べて際立っている。
床を選ぶとき、「今のコスト」だけでなく「これからの30年」で考えてみてほしい。