コワーキングスペースの設計——共同作業の場をデザインする

コワーキングスペースの設計——
共同作業の場をデザインする

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

コワーキングスペースの設計——共同作業の場をデザインする

「ひとりで働く」から「ともに働く」へ

コワーキングスペースという言葉が日本で広まったのは、2010年代半ばのことだ。フリーランス、スタートアップ、リモートワーカー——会社に縛られず働く人々が増えたことで、自宅でも職場でもない「第三の場所(サードプレイス)」への需要が生まれた。

そして2020年のパンデミック以降、コワーキングスペースは新たな局面を迎えた。大企業の社員が週に数日オフィスではなくコワーキングスペースで働き、地方に移住した都市のビジネスパーソンがサテライトオフィスとして活用する——コワーキングスペースの利用者層と利用形態は、劇的に広がった。

建築家として私が注目しているのは、この変化が「働く空間の設計」に何を求めているかだ。

集中とつながりの両立——コワーキング設計の根本課題

コワーキングスペースの設計が難しいのは、相反するニーズを同時に満たさなければならないからだ。

集中とオープンネスの矛盾

コードを書く、文章を書く、会計処理をする——深い集中を必要とする作業をする人がいる一方で、打ち合わせをし、電話をし、他の利用者と雑談する人もいる。

同一空間でこの両方を実現しようとすると、集中したい人は騒音に悩まされ、コミュニケーションしたい人は周囲への気遣いでストレスがかかる。

この矛盾を解くために、ゾーニング(空間の分節)が重要になる。集中エリア、コラボレーションエリア、電話ブース、カフェスペース——空間を明確に分けながら、移動が自然になるよう動線を設計する。

しかしゾーニングしすぎると、コワーキングの最大の魅力である「偶発的な出会い」が失われる。境界は曖昧に、でも機能は分けるという、繊細なバランスが求められる。

個性とブランドの演出

コワーキングスペースは、内装の個性がビジネス差別化に直結する。「あのスペースはミニマルで集中できる」「このスペースはカフェっぽくて居心地がいい」——利用者は感覚的に自分に合う場所を選ぶ。

内装の方向性は、その空間がどんなコミュニティを引き寄せたいかの意思表明だ。IT系フリーランスを呼びたいのか、クリエイターを呼びたいのか、子育て中のワーキングマザーを呼びたいのか——ターゲット像が内装の語彙を決める。

音の設計——最も見落とされやすい要素

コワーキングスペースのクレームで最も多いのは「音」だ。カフェの雑音は気にならないのに、隣の席でのキーボードのタイプ音は気になる——この非対称は、音の性質によるものだ。

音の種類と対処

明瞭な音声(会話、電話)は集中を妨げる。一方、適度な環境音(BGM、白色雑音)はむしろ集中を助けることがある。コーヒーショップでの作業が捗る、という経験を持つ人は多いはずだ。

吸音パネルの配置、天井のルーバーによる音の拡散、電話ブースの完全防音——音の設計は、床・壁・天井の素材選択と構造的な工夫の組み合わせだ。

サウンドスケープという考え方

私が関心を持っているのは、「サウンドスケープ」という概念だ。音を消去するのではなく、心地よい音環境を積極的にデザインする考え方だ。

水の音、自然の環境音、低音域の音楽——こうした「心地よいノイズ」を戦略的に設計することで、特定の不快な音が相対的に気にならなくなる。それだけでなく、空間に「温度感」が生まれる。

素材とライティング——働く気分をコントロールする

コワーキングスペースで利用者が長時間過ごすとき、素材と照明の選択は生産性に直結する。

木と緑の効果

コンクリートとスチールだけのハードな空間では、長時間の作業で心理的な疲弊が生じやすい。木材のぬくもり、植物の緑、自然素材の質感——これらが空間に「やわらかさ」を与えることは、環境心理学の研究でも確認されている。

バイオフィリックデザイン(自然との接触を空間設計に取り込む考え方)は、コワーキングスペースとの相性が良い。壁一面の緑化、窓からの植栽、自然素材の家具——これらは単なる装飾ではなく、利用者のウェルビーイングに寄与する設計判断だ。

照明の層

均一な明るさの蛍光灯は、事務所感が強く疲れやすい。コワーキングスペースでは、照明を層として設計することが重要だ。

天井からの全体照明(ベースライト)、デスクへのタスクライト、雰囲気を作るアクセントライト——この3層を組み合わせることで、目的に応じた光環境が作れる。集中ゾーンは明るく、リラックスゾーンは低い間接光で——照明が空間の「温度」を調節する。

地方コワーキングスペースの可能性

東京のコワーキングスペース市場は飽和に近づきつつあるが、地方はまだ余地がある。

私が関わった香川のプロジェクトでは、古い商店建物をリノベーションしてコワーキングスペースに転用する計画があった。既存の梁を活かした高い天井、瀬戸内の光を取り込む開口、石蔵の質感を残した内壁——その土地の記憶を持つ建物が、新しい働き方の場所になる可能性がある。

地方のコワーキングスペースが持つ強みは、東京にはない「場所の固有性」だ。コワーキングスペースをきっかけに移住を決めた人、その場所で出会ったビジネスパートナーと起業した人——場所が縁を作るという、建築本来の力が発揮される場面だ。

働く場所が、働く人間をつくる

空間が人の行動を変えるということを、私は常に意識している。

雑然とした空間では、雑然とした仕事をしてしまいがちだ。整った、質の高い空間にいると、自分もその空間にふさわしい仕事をしようという意識が自然と生まれる。

コワーキングスペースの設計は、そこで働く人のパフォーマンスと、人と人のつながりの質に直接影響する。設計者として、その責任の重さと面白さを感じながら、私は今日もスケッチを描いている。

働く場所をデザインすることは、働くということの意味を問い直すことでもある。

→ 建築家・河添甚のプロフィール

河添 甚
河添 甚 代表建築家 / KAWAZOE-ARCHITECTS主宰

1977年、香川県生まれ。大阪工業大学建築学科卒業後、組織設計事務所で複合施設・商業施設の設計に携わる。2010年、河添建築事務所を設立。香川・東京を拠点に、「なぜその形か」を問い続ける設計を行う。

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