設計の出発点は、図面ではなく、敷地に立つことから始まる。私たちはいつも、最初の打ち合わせの前に、できる限りの時間を敷地で過ごす。
敷地は、いくつもの「層」でできている
敷地に立ったとき、最初に意識するのは方位だ。太陽が一日のあいだどう動き、どの方向から光が差し、どこに影が落ちるか。次に風。瀬戸内のような穏やかな風向きの土地もあれば、海風と山風が時間で入れ替わる土地もある。風は窓の位置を決め、開口部の大きさを決め、断熱の考え方まで決める。
方位と風が分かれば、次は隣家との関係を見る。窓と窓が向き合うのか、視線が抜けるのか、塀の高さで何が変わるのか。隣家の生活時間まで含めて、敷地は「ひらかれている部分」と「とじている部分」に分かれていく。
道路・地形・地域の歴史
道路との関係はアプローチを決める。車をどこに停めるか、玄関までの距離はどうとるか、雨の日の動線はどうなるか。地形は基礎の形を決め、地域の歴史は外観の語彙を決める。古い街並みのなかに突拍子もない屋根を載せても、建築は街と会話できない。
「土地と暮らしを、設計でつなぐ」というとき、私たちが見ているのはこういう、一見地味で、けれども建築の品質を決定的に左右する層のことだ。
敷地を読まないとどうなるか
カタログ的な間取りを、どんな敷地にも当てはめてしまうと、建築は土地と切れる。光が入らないリビング、隣家とまる見えの寝室、夏に熱がこもる西側の大開口。よくある不満はたいてい、敷地を読むという最初の工程を省略した代償としてあらわれる。
逆に、敷地を丁寧に読めば、敷地そのものが設計のヒントを大量に与えてくれる。「ここに大きな窓を開ければ遠くの山が見える」「この方向にだけ風が抜ける」「この道からは建物がどう見えるか」。設計はそのヒントを翻訳する仕事だと言える。
設計者は、敷地の通訳である
住み手が「日当たりがいい家がほしい」と言ったとき、私たちはそれを「南面に大窓」とは訳さない。その敷地で、南面に大窓を開けたとき何が起きるかを先に読み、必要なら東を開け、必要なら吹き抜けを切り、必要なら屋根の形を変える。住み手の言葉と敷地の事情をつなぐのが、設計者の役目だと思う。
図面の前に、敷地に立つ。これが私たちの設計の出発点であり、おそらく終着点でもある。
この記事は河添建築事務所のジャーナル「建築家のノート」の一篇です。設計のご相談はContactから、設計思想の全体像はDesign Conceptをご覧ください。